東京地方裁判所 昭和40年(ヨ)2174号 決定 1966年2月26日
申請人 小嵜誠司 外三名
被申請人 日本航空株式会社
主文
一、申請人らが被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。
二、被申請人は、(1)申請人小嵜に対し金一、五一八、一二〇円、同田村に対し金一、二九七、一〇八円、同藤田に対し金一、三一五、一三四円、同丸山に対し金一、三六五、五五八円及び(2)申請人らに対しそれぞれ昭和四一年三月以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金一〇〇、〇〇〇円を仮に支払え。
三、申請人らのその余の申請を却下する。
四、申請費用は、被申請人の負担とする。
(注、無保証)
理由
第一、申請の趣旨及び理由は別紙(一)、被申請人の答弁及び主張は別紙(二)、右主張に対する申請人らの答弁及び反論は別紙(三)記載のとおり。
第二、被申請人(以下「会社」ともいう。)は定期旅客、貨物の航空運輸を主たる業とする株式会社であり、申請人らは会社中央運航所乗務部に所属し、申請人小嵜は航空士、同田村は航空機関士、同藤田、丸山は副操縦士であつたこと、会社が昭和四〇年五月七日申請人らに対し懲戒解雇の意思表示をしたこと、申請人らは会社の乗員の殆んど全員をもつて組織する日本航空乗員組合(以下「組合」という。)の組合員であり、申請人小嵜は同組合執行委員長、同田村は副委員長、同藤田は書記長、同丸山は執行委員・情宣部長であることは、当事者間に争いがない。
第三、一、右懲戒解雇は組合が昭和三九年一一月一二日より一四日まで及び同年一二月二一、二二日の両日に亘つて行なつた争議行為を理由とするものであることは当事者間に争いがないところ、申請人らは、右争議行為は正当な組合活動の範囲内のものであると主張し、被申請人はこれを目的、態様において違法であると反論するので、以下右争議行為の適否につき判断する。
二、1、事実関係=争議の経過
当事者間に争いのない事実及び疎明によれば、次のとおり認められる。
(一) 一一月争議に至るまでの経緯
(1) 外人ジエツト・クルー導入問題
会社では、定期運航路線に使用するジエツト機として、ダグラスDC―八型機とコンベアCV―八八〇型機の二機種を採用しており、このうち後者の日本人機長を養成するために昭和三九年四月以降乗員養成計画を実施していたが、予定通り進行しなかつたため日本人機長の昇格が大巾に遅れ、機長の不足によりCV―八八〇型機の運航に支障を来たす虞を生じた。そこで、会社としては同型機機長の不足を補いつつ、同型機機長候補者の機長への移行期間短縮を図ることを目標として、外人乗務員六名をセイフテイ・キヤプテン(教官兼機長)として導入することを決定し、新たに外人乗務員六名を雇入れて九月からその訓練を開始すると共に、同月九日その旨組合に通知した。組合は一〇月二日、会社の措置は会社組合間の昭和三八年八月二四日付覚書第三項「外人ジエツト・クルーの雇傭は機長四名、航空機関士四名に限る」との条項に反するとの抗議を申し入れたが、会社は、同月五日組合に対し会社の上記措置は日本人機長の養成を目的とし、日本人乗務員の昇進に何ら支障を来たすものでないから、右覚書に反しない旨回答した。
組合の申入れにより一一月六日右の問題につき労使会議が開かれたが、双方とも上記見解を主張して意見対立のまま終つた。
(2) カイロ・カラチ間航空士乗組み問題
会社の経営する南廻り欧州路線中カイロ・カラチ間は、法規上航空士を乗務させない編成、即ちパイロツト・ナビゲーシヨン(操縦士による航法)で足りるものとされている個所であるが、会社は昭和三七年一〇月右路線開設以来航空士を乗務させていた。会社では昭和三八年三月頃からパイロツト・ナビゲーシヨンの実施を考慮しながら延期を重ねていたものであるが、昭和三九年七月下旬最終調査の結果その実施に何ら不安・支障のない確信を得たので、八月二九日組合に対して右調査の結果を説明して、九月七日から実施したい旨申し入れた。組合は、新執行部が成立する九月一五日までその実施の延期を求め、さらに九月一六日会社に対して右実施については技術的にもなお検討を要するので一〇月五日の組合大会まで延期するよう申し入れたが、会社は九月二〇日その実施に踏み切つた。
(3) そこで組合は、一〇月二八日労働大臣及び中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対して、右(1)(2)の問題に関し争議行為の予告(労働関係調整法(以下「労調法」という。)三七条)をした。一一月一二日に至り、これらの問題につき会社と組合との間に第一回の団体交渉が開かれたが、組合は(1)の問題で会社が覚書違反を認めない限りいかなる話合いにも応じられないと主張し、会社も従来の主張を固持したため、何ら話合いの進展をみないまま、午後三時三〇分頃これを終了した。
(二) 一一月争議における争議行為の実情(ストライキ―以下「スト」という。―の態様)
(国際線乗務員の出発前の業務内容は、別紙(二)被申請人の主張一、(二)(1)記載のとおりである。―争いのない事実)
(1) 一二日午後一〇時発ホノルル・ロスアンゼルス行(八六二便)―乗務予定者:牛島機長、右京副操縦士、宮川航空士、井原機関士(なお中島副操縦士は同乗訓練者として搭乗が予定されていたが、出頭定刻頃までに会社において右予定を取り消した。)。右四名は、出頭定刻(出発時刻前一時間三〇分。以下同様である。)までに乗務管理課に出頭し、午後九時頃運航管理課室を去るまでいずれも平常通り出発前準備作業を行なつたが、その後飛行場へ赴かなかつた。
組合は、午後九時頃社長自宅あて電話をもつて申請人小嵜より会社社長に対し右四名を指名ストライキ(以下「指名スト」という。)に入れた旨通知し、九時二〇分頃組合事務所までスト情報の真否を確かめにきた運航管理課職員八下田に対しては、社長から話があるだろうとだけ回答した。そして一三日午前〇時五九分に至つて上記乗務員四名の指名スト解除を会社に通告した。
会社は、組合から社長への上記電話通告を受け、その真否を確かめるため運航統制室より各現場に照会して実情を調査していたが、九時二〇分になつても前記四名が飛行場に姿を見せず、同時刻頃組合役員より八六二便のフライト・ホールダー(運航に必要な書類入れ)が返納された等の事実から、上記四名の乗務員が指名ストに入つたことはほゞ間違いないと判断し、九時二五分頃になつてようやく代替要員(管理職)により同便を運航させることを決定してその措置をとり、同便は予定時刻より二時間遅れて出発した。
(2) 一三日午前九時二〇分発バンコツク・シンガポール・ジヤカルタ行(七一五便)―乗務予定者:上西機長、宮田副操縦士、村田航空士、榎本機関士
右の者は全員定刻に出頭し、出発前の準備作業を行ない、運行管理課室を出て行つたが、その後飛行場にあらわれなかつた。
組合は、会社に対し午前八時二〇分先ず村田について八時一〇分以降ストに入れた旨、次いで八時三〇分、他の三名についてもストに入れる旨を通告したが、午前九時に至り、右四名の指名スト解除を通告した。
会社においては、右指名スト通告に接し早速管理職の航空士等代替要員四名の緊急手配を行なつていたところ、前記の如く指名ストが解除されたので、組合事務所にいた上記上西ら四名に再び乗務を命じ、結局同便は午前九時五五分出発した。
(3) 一三日午前一〇時発ホノルル・サンフランシスコ行(八〇六便)―乗務予定者:菅野副操縦士、箕輪航空士ほか二名右四名のうち、菅野、箕輪両名は、定刻になつても出頭しなかつた。
組合は会社に対し定刻午前八時三〇分に右両名の指名ストを通告し、午後一時に至り右スト解除を通告した。会社では、九時二三分スト対策本部において同便の欠航を決定するに至つた。
(4) 一三日午前一一時発香港行(七三五便)―乗務予定者:増子機長(管理職)、阪西副操縦士、野村航空士、八木機関士右四名の者は全員定刻までに出頭し、所定の通りの出発前準備作業を終了し、運航管理課室を出て行つたが、その後増子を除く他の三名は、飛行場にあらわれなかつた。
組合は、午前一〇時二〇分頃藤山乗務管理課長の電話による問合せに対し、一〇時に右三名をストに入れた旨通告し、その後午前一一時三〇分、右ストの解除を会社に通告した。
会社は、右問合せにより上記三名が指名スト中であることを知つたので、前掲七一五便のため緊急呼出をしていた代替要員を急拠七三五便に流用して運行することにし、結局同便は一二分遅延して出発した。
(5) 一三日午後〇時発ホノルル・ロスアンゼルス行(八一六便)―乗務予定者:相沢機長、藤田副操縦士、猪俣航空士、神尾機関士(管理職)
右四名の者はいずれも平常通り出頭して出発前の準備作業を遂行し、運行管理課室を出ていつた。
組合は、一一時二二分頃会社からの問合せに対し同便は現在指名ストには入つていない旨回答したが、その直後一一時三〇分神尾を除く三名を指名ストに入れる旨を会社に通告し、午後一時に至つて右指名ストの解除を通告した。
会社では、急拠管理職の代替要員を呼出手配して、結局同便は四八分遅れて出発した。
(6) 一三日午前一一時二〇分発福岡行(三二三便)―乗務予定者:中村副操縦士ほか三名
右四名の者は、いずれも国内線の定刻である出発一時間前までに平常通り出頭して出発前の準備作業を遂行した。
組合は、一一時七分になつて、右中村一名だけについて午前一〇時四五分以降ストに入れた旨会社に通告し、午後一時五〇分に至つて午後一時以降右指名ストを解除した旨を通告した。
会社は、右中村の代替要員として増田副操縦士(組合員)に乗務を命じ、同便は、一時間三三分遅れて出発した。
(7) 一三日午後一〇時発ホノルル・ロスアンゼルス行(六六便)―乗務予定者:池内航空士、吉永副操縦士ら
右乗務予定者のうち、池内、吉永の両名は、定刻になつても出頭しなかつた。
組合は午後八時三〇分頃池内を、次いで数分後吉永をいずれも即刻指名ストに入れる旨を会社に通告したが、池内については、会社が同人の代替要員として招集した後記印藤が実兄の葬儀直後で乗務させるのは気の毒であつたため、午後一〇時二〇分になつてスト解除の通告をした。しかし、吉永についてはスト解除通告をしなかつた。会社は右吉永、池内の代替要員として、それぞれ高崎機長、印藤主席航空士教官を緊急招集して出発の手配を了えたが、組合から前記のように池内のスト解除の通告があつたので、印藤に代えて、池内を乗務させることとし、結局同便は五〇分遅れて出発した。
(8) 一四日午前八時五〇分発ソウル行(九五五便)―乗務予定者:桑原機長、石橋副操縦士、山崎機関士
組合は右三名の出頭定刻(国内線に準じて出発一時間前)午前七時五〇分に、右三名を指名ストに入れる旨会社に通告したが、後記会社の申し入れにより、午前八時二〇分頃右三名の指名ストを解除し、その旨会社に通知した。
会社は、同便にはオリンピツクのため来日し出入国管理規則上至急帰国を要する韓国人が搭乗する予定になつていて、若しストのため同便が欠航になれば日韓国際関係上好ましくないので、組合にスト解除を申し入れ、その結果上記のようにストは解除されたが、同便の出発は結局五〇分遅延した。
(9) 一四日午前一〇時発ホノルル・サンフランシスコ行(八〇八便)―乗務予定者:谷脇機長、菅野操縦士、宮川航空士、佐々川機関士
右四名はいずれも平常通り定刻までに出頭して、出発前準備作業を終え、運航管理課室を出て行つたが、飛行場にはあらわれなかつた。
組合は、九時一〇分頃右四名をストに入れる旨会社に通告し、更に会社が代替要員として招集した大野航空士について午後〇時四五分頃同人をストに入れる旨の通告をした。右五名のうち大野については午後一時三七分スト解除を通告したが、他の者については午後六時二七分藤山乗務管理課長からの問合せに対して、菅野、宮川は既にスト解除になつているが、谷脇、佐々川はなおスト中であると回答し、その後何の通告もしなかつた。
会社は当初前記四名の指名スト通告を受けたので代替乗務員として組合員である平谷機長、中島副操縦士、大野航空士、佐藤機関士のほか万全を期して管理職の高橋航空士をも緊急招集したところ、大野を除く四名がまず揃つたので、出発前準備作業を終え飛行場に赴かせた。その後に大野が出頭してきたので、同人にストに入つていないことを確かめた上高橋と交替して乗務を命じ、右大野が出発準備作業を了えて運航管理課室を出て行つた直後に同人の前記指名スト通告に接した。そこで会社は、飛行場から一旦戻つていた高橋を乗務させることにしたが、右事態により同便の出発は、予定時刻より三時間四四分遅延した。
(10) 一四日午前一一時発香港行(七三七便)―乗務予定者:西郡機長(管理職)、金高副操縦士、中井航空士、早野機関士(管理職)のほか、同乗員として杉本航空士、右乗務予定者は皆定刻に出頭して、出発前の準備作業を進め、運航管理課を出ていつた。
組合は、一〇時三五分頃組合事務所に来合わせた越山運航サービス部長、藤山乗務管理課長に対し、金高、中井、杉本の三名は一〇時一〇分以降ストに入つた旨通告し、その後午後六時半頃藤山乗務管理課長よりの問合せに対して、中井は既にスト解除になつているが金高、杉本はなおスト中であると回答し、その後何の通告もしなかつた。同便には中共向けの中国人の遺体一五体を乗せ、目的地到着後は儀式が行なわれることになつており、同便が遅延又は欠航すれば国際問題にもなりかねないので、会社は前記越山、藤山を組合事務所に赴かせ、同便をストに入れないよう要請したにもかかわらず、組合から前記スト通告を受けた。そこで会社は、同便の出発時刻を三時間遅らせて午後二時とし、前記遺体はやむなくガルーダ航空会社の便に移つて貰い、待機乗員の緊急呼出しをかけて代替要員を手配したが、同便は結局当初の出発予定時刻より三時間五九分遅れて出発した。
(11) 一四日午後一〇時発ホノルル・ロスアンゼルス行(六八便)―乗務予定者:倉田機長、柳田副操縦士、花田航空士、鈴木機関士
右四名の者は、平常通り出頭して出発前準備作業を遂行して運航管理課室を出ていつたが、その後飛行場にあらわれず、後記野村は終始出頭しなかつた。
組合は、九時三〇分会社に対し、鈴木については九時二分以降、他の三名については九時一〇分以降ストに入つた旨通告した。なお組合は、会社から同便の待機乗員に指定されていた野村航空士についても、一五日午前一時会社の問合せに対して一四日午後六時五〇分以降ストに入つた旨回答すると共に、花田のスト解除を通告したが、野村及び他の三名についてはその後解除の通告はしなかつた。
会社では当初四名のスト通告を受けて、航空士以外は管理職の代替要員を緊急呼出しして、出発の準備をすることができたが、航空士については待機乗員に指定した野村以外に代替要員がなく、同人は前記のように全然出頭せず連絡もとれなかつたので、午後一〇時四二分に至り、同便をやむなく欠航と決定した。
(三) 一二月争議に至るまでの経緯
組合は、昭和三九年三月一〇日基本賃金の引上げ、乗務手当、乗務日当、基本給移行基準新設、クルーレイトの設置、ロス・オブ・ライセンス等についての要求書を会社に提出し、数回の団体交渉の後、六月四日会社から乗務手当、乗務付加手当の増額を中心とする最終的な回答書を受け取り、同月一〇日協約締結権のある代議員大会で右会社回答を承認することに決定し、翌一一日組合執行委員長谷脇から会社にその旨を通告した。
そこで会社は六月二二日右回答に基き協定書案を作成して署名のため組合に送付したが、組合は同月二八日開催の臨時組合大会において会社案は受諾できない旨決議し、翌二九日会社にその旨を通知した。当時の組合執行部はその責任をとり七月一日全員総辞職し、九月一五日新執行部が成立したが、新執行部は基本賃金引上げ(賃上げ要求の時期について明記されていない。)、乗務手当、乗務付加手当、運航乗務員の旅費の各引上げ、海外渡航支度料の要求等について同年一一月四日要求書を会社に提出し、同月一八日右要求につき同月二五日団体交渉を開催するよう要求し、同月二七日には労調法三七条の争議行為通知を労働大臣と中労委に対してした。これに対し会社は、前記六月四日回答の会社案にそつて四月に遡つて賃金等を支払い、組合の要求により開催された一二月一〇日第一回、同月一四日第二回の各団体交渉においても、昭和三九年度の賃上げ問題は六月の会社回答により既に解決ずみであるから、組合が会社回答に基く協定書案に調印しない限り新要求については話し合いをしないと主張したので、団体交渉は決裂した。
一一月一六日会社は中労委へ調停を申請し、一九日の第一回調停委員会では双方から交渉の経緯・主張点などの聴取が行なわれ、二一日に開かれた第二回調停委員会では、調停委員だけの審議に入つたが使用者側委員と労働者側委員との間で意見が対立していた。
(四) 一二月争議における争議行為の実情(ストの態様)
(1) 二一日午後一〇時発ホノルル行(五二便)―乗務予定者:原野機長、大橋副操縦士、狩谷航空士、高橋機関士
右四名は、定刻になつても出頭しなかつた。
組合は、午後八時四〇分右四名を八時三〇分よりストに入れた旨、そして午後一一時右全員についてストを解除する旨を会社に通告した。
会社は早速管理職の代替要員を緊急招集したが時間を要し、結局同便は四九分遅延して出発した。
(2) 二二日午前八時二〇分発大阪・台北・香港行(七〇三便)―乗務予定者:鈴木航空士ほか三名
組合は、午前六時五〇分右四名のうち鈴木航空士のみについて同時刻以降指名ストに入れる旨、そして午前八時一〇分右指名ストを解除する旨を会社に通告した。
会社は用意していた管理職航空士を代替要員に当て、同便は三分の遅延のみで出発した。
(3) 二二日午前一〇時発ホノルル・ロスアンゼルス行(八一〇便)―乗務予定者:中井航空士ほか三名
右四名のうち、中井航空士は、定刻になつても出頭しなかつた。
組合は八時四五分右中井について、同時刻以降指名ストに入れる旨、そして九時二〇分右指名ストを解除した旨を会社に通知した。
会社は早速管理職の代替要員に乗務を命じ、同便は五分の遅延のみで出発した。
(4) 二二日午後〇時三〇分発福岡・沖繩間往復(九〇一・九〇二便)―乗務予定者:野原機長、石橋副操縦士、荒井機関士
右三名は午前九時五〇分東京発福岡行三九一便に便乗して福岡に行き、同地以遠を往復乗務することになつていたところ、組合は、午前九時二〇分石橋を九時一〇分以降、次いで九時三〇分頃野原を九時二〇分以降ストに入れた旨会社に通告し、前記三九一便出発後の午前一〇時一五分に至つて、同一〇分以降右両名のストを解除した旨連絡した。
会社では、直ちに代替要員を確保するあてがなかつたので、九時四五分に至り福岡以遠の同往復便を欠航と決定した。
(5) 二二日午前一〇時五〇分発香港行(七三三便)―乗務予定者:菅野副操縦士、野田航空士ほか
同便の乗務予定者中、右菅野、野田両名は定刻になつても出頭しなかつた。
組合は、午前九時三〇分右両名を九時二〇分以降ストに入れた旨会社に通告し、後記欠航決定直後の一〇時二五分に至つて一〇時二〇分以降右ストを解除した旨通告した。
会社では同人に代る管理職代替要員がいないので、やむなく一〇時二〇分同便を欠航と決定した。
(6) 二二日午後一〇時三〇分発コペンハーゲン・ロンドン・パリ行(四〇一便)―乗務予定者:村川副操縦士、勝野航空士ほか
組合は、午後八時五〇分右乗務予定者のうち村川、勝野の両名を九時以降指名ストに入れた旨、そして午後九時三〇分右両名のストを解除する旨を会社に通告した。
会社では、右スト通告を受けて直ちに待機せしめていた管理職乗務員を代替乗務させ、同便は結局三八分遅れて出発した。
(五) 右一一月、一二月争議行為の会社業務に及ぼした影響
(1) 国際線における支障、混乱
イ、国際線の運航乗務員については、各月前後半の二回に分けて予め乗務割が決定され、乗務の当日には、出航一時三〇分前には会社に出頭して所要の準備作業(被申請人主張一、(二)(1)記載)を行なわなければならないところ、本件争議行為にあつては、乗務割に従い出頭して準備作業を終了した後当該組合員の指名ストを行なつた事例が少くなく、このため代替要員の招集、手配が遅れ、準備作業を再度繰返す等の手間や時間を要して、それだけ出発時刻の変更、遅延ないし欠航を余儀なくされる便が多くなつた。
(なお、会社では、(二)、(四)に記載したストによる欠航五便のほか、右ストの状況から判断して、ストが継続する場合の混乱を避けるため、一一月一五、一六日発の国際線のうち六便((他に沖繩線一便))の欠航を事前に決定した。)
ロ、国際線の旅客は予め航空券を購入して、出発の約二時間前には国際空港に到来し、出入国票の作成、手荷物の計量、旅券査証の確認等の諸手続、さらに税関及び出入国管理検査(通称C・I・Q)等所要の出国手続をすべて経由した上(見送人等とはC・I・Qの入口で隔離される。)、搭乗までの間、出国待合室で待機するのが例である。そこで、会社の東京空港支店では出発二時間前から搭乗手続を開始し、出発三〇分前には搭乗を開始しているが、本件争議行為では組合の指名スト通告が出発直前会社において既に当該便の搭乗手続を開始した後に行なわれ、とくに最初の一一月一二日の八六二便の乗務員の指名ストについては、会社の空港支店現場においてこれを確知したのは既に旅客の飛行機搭乗終了後のことで、一旦搭乗した旅客に再び出国待合室へ戻つて貰う結果となり、また同月一三日の八〇六、七三五、八一六便、一四日の六八便については、旅客がすべて出国手続を終了し出国待合室で待機している段階でスト通告がなされたものである。その為、空港支店では旅客に対する陳謝、事情説明や善後策の検討を余儀なくされ、他の航空便の斡旋(一一月一二日八六二便、一三日八〇六便、一四日七三七、六八便、一二月二二日七三三便)、ホテル予約(一一月一四日六八便)、飲物、食事の提供(一一月一二日八六二便、一四日九五五、八〇八、七三七、六八便、一二月二一日五二便、二二日七三三便)、その他旅程変更手続、連絡電報発信、関係官庁・事務所への連絡等のため繁忙をきわめたが、なお旅客よりの不満、苦情が少なくなかつた。
ハ、会社では、外国向け貨物の運送は代理店を通じて輸出通関後に当該便の旅客予約情況、郵便搭載量を配慮しながらスペースの予約申込みを受けているが、搭載までの間に必要な準備作業として航空貨物運送状、輸出許可証と共に該貨物を搬入し、貨物搬出届(各取卸地別に貨物積荷目録)を作成して税関に提出して照合、審査を受け、該貨物の保税上屋よりの搬出及び航空機への搭載について認可を受けなければならない。会社はかような準備作業を出発二時間前までに了して空港グランドサービス社(AGS社)により貨物を航空機に搭載するのを例としていたが、本件争議行為による欠航便については、税関申請事項の変更が必要となり上述のような会社の準備作業が徒労に帰する結果となつた。
ニ、国際線郵便運送については、特定の便を搭載指定便として公示ないし関係機関を通じて周知させ、利用者の郵便発送計画の便に供しているところ、一一月一三日の八〇六便は郵便搭載便として北米、中、南米あての郵便物二三五袋を運ぶ予定になつていたが、欠航となつたため、空港郵便局と相談の上、やむなく指定便でない八一六便で送ることとした。
(2) 国内線における支障、混乱
国内線においても、ほぼ同様な支障、混乱が発生した。即ち、一一月一三日の三二三便は国内線初のストライキであつた為、突然の出発時刻遅延に対して旅客から強く苦情を云われ、会社は、陳謝了解を求め、昼食も提供し、他便への斡旋に努めた。又一二月二二日の九〇一便については、既に三九一便に搭乗して出発直前の沖繩行旅客四名を急拠飛行機から降して事情を説明し、代替便の斡旋、連絡電報の発信、昼食等のサービスを提供した。なお、右三九一便には沖繩向けの郵袋三〇個が搭載されていたが、突然の欠航のためやむをえず取卸して郵便局に返戻し、右郵便物は翌日他社の便で送られた。
(3) 運賃、顧客の喪失等
前認定のような各便の出発遅延ないし欠航により、会社が当該便に予定されていた旅客、貨物等の運送契約の全部又は一部の解約を余儀なくされた結果、当該便が正常に運航された場合に会社の収入となるべき運賃額の全部又は一部を得られなくなり、その金額が相当の多額に上ることは認めるに十分であるけれども、右喪失した運賃収入のうち幾何の額が会社の実損害に帰するかは、疎明上明らかでない。
さらに、本件ストライキの事態に鑑み、最大顧客である三井物産は労使関係の安定をみるまで職員・家族の渡航に会社便を使わない方針をきめ、大倉会(東京地区家具メーカーの団体)の東南アジア旅行団の会社貸切便利用計画は他社に流れ、又郵船航空(国際運送協会指定代理店)でも会社便の利用を暫く差控えるようになつた。その他、この種の顧客の喪失がある程度生じたことは、推認するに難くない。
なお、会社の国内旅客運送約款によれば、争議行為に原因する運航時刻の変更、欠航等による損害について会社は賠償責任を負わない旨が定められている。会社の国際線の旅客、貨物等の運送約款に同様の免責条項が定められているかどうかは明らかでないけれども、前記旅客に対する食事提供、宿舎斡旋等のサーヴイスのほかに会社が本件ストライキによる航空便の遅延、欠航について現実に損害賠償を履行した事実については、主張も疎明もない。
2 当裁判所の判断
(一) 一一月争議について
(1) 争議行為の目的について
イ、(外人ジエツト・クルー導入問題)被申請人は外人ジエツト・クルー導入問題は昭和三八年覚書の条項の解釈に関する争いであり、本来争議行為に訴えて使用者に実力をもつて一方的な解釈を強制すべき筋合のものではないと主張するけれども、右覚書(労働協約の性質を有するものと認められる。)の条項が組合員の労働条件その他の待遇に関連するものである場合、右条項の解釈のいかんは当然現実の労働条件に影響を及ぼすものであるから、組合が正当と信ずる解釈を主張し、協約上の労働条件が不当に侵害されないよう争議行為の手段に訴えてその主張の貫徹をはかることは、何ら法の禁ずるところではない(むしろ労調法二六条は労働協約の解釈に関する意見の不一致が一般に争議行為の目的となり得ることを前提とした趣旨の規定である。)。本件の場合についてみるのに、右覚書三項において外人ジエツト・クルーの雇傭数をとくに四名と限定しているのは、外人クルーの雇傭を無制限に許すことによつて日本人クルーの機長への昇進が妨げられることに対する組合員の危惧を配慮した趣旨と解されるところ、同項にいう「外人ジエツト・クルー」中に乗員の訓練をも目的としたセイフテイ・キヤプテン(教官兼機長)が含まれるか否かは解釈上大いに疑義の存するところであり、ことに会社が新たに雇傭した前記六名の外人クルーはCV―八八〇型機の営業路線に機長(兼教官)として乗務させ日本人機長の不足をも補う計画であつたことが認められるから、組合の立場として右外人クルーの雇傭が上記覚書三項に反するものと解釈し、会社がこれと反対の見解のもとに上記計画を実行しようとするのを阻止するため、本件争議行為に及んだとしても、その目的において不当と云うことはできない。
ロ、(カイロ・カラチ間航空士乗組問題)被申請人は、乗員編成は会社の経営権に属する専決事項であるから、標記問題を争議行為の目的とするのは不当であると主張するので案ずるに、乗員編成が本来会社の経営権に属する事項であるとしても、本件においてカイロ、カラチ間路線で従来実施していた航空士の乗務を廃止し、いわゆるパイロツト・ナビゲーシヨンの編成を採用することは、従前航空士の担当していた業務量だけ他の乗務員、とくに操縦士の業務負担が増加することに帰着し、右路線に乗務する組合員の労働条件に直接不利な影響を及ぼすことは明らかであり、又会社において右航空士の乗務廃止が技術的に何ら不安がないことを確信していたにせよ、長らく航空士乗務の航空に馴れて来た組合員操縦士等において、なお、その安全性につき多少の危惧を感じたとしても、あえて異とするに足りない。かように会社の実施しようとする乗員編成の変更が組合員の労働量、労働安全等の条件に直接影響があると考えられる場合、組合が反対を主張し、右主張を貫く手段として争議行為を行なうことについては、何ら責めらるべきいわれがない。
ハ、(団体交渉を無視した「争議のための争議」であるとの被申請人の主張について)被申請人は、争議権は団体交渉を有利に進展させるための手段たることを本質とするから、争議権の行使は労使双方が団体交渉で論議を尽した上で双方の主張が完全に対立し解決の方法が途絶した段階において初めて許されるものであるところ、本件一一月争議行為は組合側の一方的態度により実質的論議を尽さないままいきなり突入した「争議のための争議」であつて、争議権の濫用に当ると主張する。
労働者の争議権が労使の経済的対抗関係において有利な労働条件を獲得するための団体行動権の一つとして認められたものであり、従つて、労働組合が労働条件等に関して使用者との間に争いがないのに、或いは使用者に対し、その要求、主張を明確にしないまま争議行為に及ぶことは、無目的ないし使用者に損害を加えることのみを目的としたいわゆる「争議のための争議」として、一般に不当視されるところであるけれども、団体交渉を経ず或いはこれを十分尽さない段階において争議行為を行なうことについては、その具体的事情により、一概にこれを不当と断ずることはできない。本件の一一月の争議行為に入るまでの前認定の労使間交渉の経緯によれば、前記イ、ロの両問題とも、会社と組合との間において団体交渉等による十分な論議が尽されたとは認め難いけれども、双方の間の数回にわたる書面の交換その後右問題について労使会議、団体交渉が各一回開かれたが、双方ともその主張を固執して交渉は進展せず、右席上における双方の態度から推して今後もたやすく交渉の進展を期待し難い状況であつたことが看取されるのみならず、一一月争議行為当時既に会社は組合の反対にも拘らずカイロ・カラチ間は航空士乗組み廃止を実施し、セイフテイ・キヤプテンとするため前記六名の外人クルーの訓練に着手していたのであるから、組合が右両問題に関する要求を貫徹するため労使交渉の叙上の段階において争議行為に入つたとしても、その点において組合を非難するのは当らない。
以上要するに、一一月争議行為がその目的において不当であるとの被申請人の主張は、すべて理由がない。
(2) 争議行為の態様について
被申請人は、一一月争議における前記指名ストはその方法、態様において著しく不当であり、争議権の乱用であると主張するので、以下その理由とする論点について順次検討する。
イ、争議行為がその方法、態様において、労使関係の信義則に反し或いは公共の利益を著しく害する等の理由から社会的妥当性を欠くものと認められるときは、争議権の乱用としてこれを違法と解すべきことは、被申請人主張の通りである。
ロ、被申請人は、会社は公益事業を営む者として可及的に公衆の損害避止の措置をとるべき社会的責務があるから、本件のように会社に右措置を講ずる時間的余裕を与えず、抜打ち的にストを行なうことは許されない、と主張する。争議権と雖も公共の福祉による制約に服すべきことは憲法の容認するところであり、労調法はこの趣旨から公益事業における争議行為につき制限規定を設けているが、争議行為の予告については、その三七条、三九条において関係行政庁への一〇日前の通知義務とその違反に対する処罰を規定するにとどまる。その趣旨とするところは、憲法上保障された争議権に対する公衆の損害防止等の公益的理由によるやむを得ない制限として右予告義務を法律に明規すると共に、それ以上争議の相手方に対する予告等については公益上これを義務化するまでのやむを得ない必要性を欠くとの法意をも蔵するものと解される。従つて、公益事業なるが故に相手方への予告を伴わないストが当然違法不当であると云うことはできない。いわゆる抜打ち的ストもその具体的事情により違法視される場合のあることは勿論であるが、この点は非公益事業にも共通した争議権濫用一般の問題に帰着し、又かような問題として考察するのが相当であつて、事業の公益性から直ちに使用者への争議行為予告義務を帰納しようとする被申請人の上記見解には、たやすく同調できない。
ハ、被申請人は、組合は乗務員が出発前準備作業を完了し会社において当然乗務するものと予想した頃になつて、突如これを指名ストに入れる等その争議方法は会社を瞞着して徒らに損害、打撃を大きくするにあり、卑劣且つ積極的加害意図に基づく不当なものである、と主張するところ、一一月争議において、組合の採つたストの方法は、前記認定の如く飛行機の出発直前にその乗務員の全部又は一部を指名し、しかもその大半の場合乗務員が平常通り運航管理課に出頭し出発前の準備作業を終了して飛行場へ向う段階においてこれをストに入れたものであつて、会社に対する各指名ストの通告は概ねその直後に、遅い場合でも、一一月一四日六八便野村航空士の場合を除いて各スト開始後約三〇分位までの間に行なわれているが、右の様なスト及びその通告の方法によつて会社側は代替乗務員の手配、旅客の混乱防止等の対策に著しい制限を受け、そのため、業務上の支障、混乱、損害を増大せしめられたことも前認定の通りである。
しかしながら、(イ)疎明によれば、組合は右指名ストに先立ち、一〇月二八日中央労働委員会及び労働大臣に対して一一月八日以降前記両問題の解決をみるまで全路線につきストを含む争議行為の一部又は全部を実施する旨の労調法三七条に基く争議行為通知をしていることが認められ、また組合がかねてから争議予告に関する労働協約の締結に反対し、上記両問題についても会社と鋭く対立して容易に妥結を期待できない情勢にあつたことは前認定の交渉経過に徴し明らかであるから、組合が前認定のような方法の指名ストを実施する虞があることは、会社として全く予測不可能な事態ではなかつたことが了察され、もし会社が右危惧される事態に処すべき対策を事前に準備していたならば、前認定の業務上の混乱、損害をある程度まで軽減できたものと考えられる。これを換言すれば、右混乱、損害の一半は、会社の争議情勢に対する判断とその対策が万全でなかつたことにも起因するものと云えるのであるから、そのすべてをもつて被申請人主張のような組合の偽瞞ないし加害意図の徴憑と見るのは、相当でない。(ロ)いわゆる抜打ちストの概念は法律上必ずしも明確でないが、本件各指名ストが労調法三七条に違反し、或いは団体交渉等の段階を無視し、或いは相手方の全然予測可能外の時期に突発したと云う意味においての抜打ち的なストと云えないことは、前判示の通りである。而して、ストは労務不提供の方法により業務運営に支障を生ぜしめることを目的とする争議手段であるから、スト実施の範囲及び時期並びに使用者に対するその通告の時期については、法令の定めないし労使間の信義則に反しない限り、組合においてその実効性を配慮して自由に決定できるのが建前であり、事前通告を欠く指名ストであるからと云つて、当然に違法不当と断ずることはできない。(ハ)もつとも、労務不提供がストによるものか否かを不明確のままにして、或いはその停廃が企業の全機能の麻痺をもたらす性質の業務に従事する少数の者を相当期間の予告もなしに指名して行なうストの方法は労使間の衡平信義則上原則として許されないものと云うべく、使用者に対するスト通告の時期について云えば、遅くともスト開始後遅滞なくこれを行なうことを要するものと解されるところ、一一月争議における指名スト一一便の大半は事前又は開始後一〇分以内にその遅いものでも三〇分以内(但し、一一月一四日六八便野村航空士の指名スト通告はその解除に至るまでなされていない。しかし前認定事実から推すと、右通告を欠いたのは単なる組合側の手違いによるもので、そのため会社に格別の実害を与えなかつたことが窺われる。)には会社に了知せしめられており、また組合員の一部指名によるストの点については、それが各便の運航業務に対応するもので、業務全般の麻痺をもたらす類のものでなかつたことが前認定により明らかである。
これを要するに、上記指名ストがその方法において被申請人主張のように組合の害意に基く不当なものかどうかは、被申請人が主張する次のニ、ホの論点を検討配慮した上で、総合的に結論づけられるべき事柄である。
ニ、被申請人は、会社は定期航空運輸事業を営む者として、運航の確実性に対する公衆の信用を企業運営の基盤とするところ、前記ストの方法は右信用を毀損することにより労務不提供に通常伴う損害を超えた著しい打撃を会社に与えることを意図又は少くとも認識して行なつた点において争議権の範囲を逸脱したものであると主張し、右ストの方法によつて会社が定期便の運航遅延ないし欠航を余儀なくされ、旅客の迷惑、不満、顧客の減少を招いたことは、前認定の通りである。
しかし右程度の定期便運航の混乱を生じたことについては、前記の通り会社の事前対策の不十分さにも若干の責がないとは云えないと共に、組合が本件スト以外の方法、例えば仮に数日前の予告通知を伴う全員ストの方法をとつたとしても、遅延、欠航に伴う混乱が回避され又は著しく軽減されるとは、必ずしも保し難いところである。のみならず、本件指名ストの大半が事前の通告なしに行なわれたことによつて当該便の予約客の迷惑、不満の度を高めたことは肯認できるにせよ、このことによつて失われた会社の企業上の信用がその量及び質において一般のストによる遅延、欠航の場合に比し異例に深刻なものであつて、企業の存立を危くする程度のものとは考えられないし、そのような危険が現実に生じたことについての疎明もない(なお、遅延、欠航便の運賃収入の喪失による実損害については、前述の通りその額が明確でないのみならず、性質上被申請人が主張するような異常損害にも該当しない。)。
ホ、被申請人は、本件ストの方法は争議行為の実効をおさめるために必要適切な手段とも云えない、と主張するけれども、スト開始まで使用者にその予告をしないか、予告するとしてもいかなる時点にこれをするか、又全員ストによるか、指名ストによるかは、組合に及ぼす負担、公衆に対する影響等諸般の事情をも参酌して本来組合が自主的に決定すべき争議戦術の裁量(但し、その裁量が著しく社会的妥当を欠くとき争議行為が違法となる場合のあることは前述の通り)の問題であつて、本件の場合、相当期間の事前予告を伴う全員ストの方が、組合にとつてより有効適切な争議手段であつたと断定できる資料はない。むしろ被申請人が主張するような航空運輸事業の公共性、非代替性の観点からすれば、その業務の全面的停廃を招くような全員ストは、たとえ相当期間の予告をもつてするにせよ、その社会的影響ひいてはストに対する公衆の不満等を顧慮し、組合があえてこれを避けたとしても、一理あることである。
ヘ、以上被申請人主張の各論点につき判示したところを総合して考えると、本件一一月争議における各指名ストは、その態様、方法において、争議行為本来の目的、必要を越えて重大な公益を侵害し、或いは卑劣な手段をもつて会社に対する積極的加害を意図したものとは認められず、争議権乱用に亘る違法な争議行為と云うことはできない。
(二) 一二月争議について
(1) 平和義務違反の主張について
被申請人は、昭和三九年度賃上げ問題は六月中に労使間に合意(労働協約)が成立して解決ずみであるから、右問題につき合意内容と異なる別個の要求を掲げて争議行為を行なうことは労働協約に反するものであり、仮に右合意が労組法一四条の形式的要件を欠くため労働協約と解されないとしても労使間の信義に反し権利の乱用であるから、本件一二月の争議行為は違法である、と主張する。
ところで、労組法一四条が労働協約の効力発生要件としてその書面化と当事者の署名ないし記名押印を要求しているのは、労働協約が労使間において規範的拘束力を有することに鑑み、その内容の明確性と共に当事者の最終意思の確認とを期したものと解されるから、昭和三九年度賃上げ問題に関し組合との間に合意が成立したとしても、前認定の経緯により合意書面に組合の調印を得るに至らなかつた以上、労働協約としての効力を発生するに由なく、従つて右合意に反しても労働協約違反の問題を生じる余地がない。
次に、右合意に反してなされた争議行為が信義則に反し争議権の乱用であるとの主張についてみるのに、前認定の通り組合が会社の提示した賃上げ案につき組合規約に従い代議員大会の承認決議を経た上、執行委員長名義をもつて会社に対し一旦承諾の回答をしたにも拘らず、その後不承諾の回答をして会社案による協約書の作成、調印を拒否するに至つたことは、組合の内部事情はともあれ会社に対する関係において信義にもとる態度と云わざるを得ない。しかしながら、その故をもつて直ちに本件一二月の争議行為も信義則に反し違法であると断ずるのは、早計である。すなわち、(イ)組合側の右態度変更は上記代議員大会の決議が臨時組合大会の議決によりくつがえされた結果であるが、六月二九日の組合回答によりともかく会社案の労働協約化に反対である旨の組合の最終意思が表明されたものであり(前記労組法一四条は、かような事態により労働協約が不成立に終ることをも予定した規定と解される。)、他方、疎明によれば、会社は一一月組合が賃上げの新要求を提出するまでは、右会社案によらずに従前通りの賃金を支払つていたことが明らかであり、その間会社案に従う増額賃金を支払おうとした形跡も認められない。叙上の事実によれば、会社は、前記合意が組合の調印を得られないため労働協約としての効力がなく、従つて右合意は会社自身に対してもその内容に従つた規範的拘束力を及ぼすものでないことを容認し、自らその前提に立つて行動していたものと推認するに十分である。(ロ)かような事態の下に組合が、昭和三九年度賃上げ問題については労使間に何ら協定の妥結をみなかつたものとして、会社に対し前認定のような賃上げの新要求(しかも疎明によれば、組合は右新要求の実施時期については当初必しも明確な主張を掲げていなかつたことが認められる。)をなすに至つたとしても、敢てこれを異にするに足りない。(ハ)しかるに会社は前記の通り新要求についての交渉に入る前提として六月の合意内容の承認、調印を固執し、右内容に従う賃金支払の実施に及んだのであるから、組合が右新要求貫徹のため争議行為の手段に出たのもやむを得ない自然の経過と云うべく、組合を争議行為に至らしめた一半の原因は、右新要求に処する会社側の弾力性を欠いた態度にあつたものと認められる。以上の諸事情からすれば、六月の合意を理由に本件争議行為が信義則違反ないし権利乱用であるとする被申請人の主張は、失当である。
(2) 調停手続中の争議行為の不当性の主張について
被申請人は、労働委員会の調停手続中は労使双方とも紛争の平和的解決に全力を傾注すべきであり、本件のように中央労働委員会における調停手続が進行して調停案の提示を待つばかりの段階で争議行為に入ることは、労調法等の趣旨に照し争議権の乱用と云うべきである、と主張するけれども、一二月争議行為が開始された同月二一日の段階において中央労働委員会の調停手続が被申請人主張のような段階にあつたことについてこれを的確に疎明するものはないのみならず、調停進行中争議行為を禁止する成文法上の根拠もなく、本件の場合これを不当とする特段の事情についての疎明もないから、被申請人のこの点に関する主張は理由がない。
(3) 争議行為の態様について
一二月争議における争議行為については、前認定の通り指名スト実施の期間、回数、人員、通告方法、指名ストによる遅延、欠航便の数等その規模、態様において一一月争議のそれより縮少緩和されたものであつて、これを違法不当とする被申請人の主張は、上記(一)(2)において判示したと同様の理由から、これを採用することができない。
第四、結論
一、以上の通り争議行為の違法性に関する被申請人の主張は理由がなく、本件争議行為は正当な組合活動の域をなお越えないものと解されるところ、被申請人は申請人らが組合幹部として右争議行為を企画・指令して実行させたことを理由に同人らを懲戒解雇したものであるから、右解雇は労組法七条一号の不当労働行為に該当し、公序に反するものとして無効といわねばならない。
二、従つて、申請人らは、いずれも被申請人に対し労働契約に基く従業員としての地位を引続き保有し、所定の賃金の支払を受ける権利があるところ、本件解雇当時申請人らが支給されていた賃金の種別・支払時期、各種別及び合計の平均月額が申請人ら主張の通りであることは争いがなく、従つて本件解雇がなければ支払を受くべかりし賃金の総額も右平均額とほぼ同額のものと推認される。
被申請人は、乗務付加手当、乗務日当は現実の乗務に対して支給される性質のものであるから、右総額より控除さるべきである、と主張し、疎明上これらの給与が乗務時間に対応して支給されるものであることは認められるけれども、それが現実の乗務に伴い乗務員として免れない出費に対する補償の実質を有するものであることが認められない以上、右賃金相当額からその控除を受けるいわれはない。
賃金未払額が別紙(一)申請理由三(三)、五記載の通りであることは当事者間に争いがないから、申請人らは右金員を受取る権利がある。
三、申請人らは航空士・航空機関士・操縦士等として航空機に乗務する労働者であつて、反証のない限り会社から支給される賃金によつて生活を営んでいるものと推測され、会社から従業員としての取扱いを受けないことによつて、本案判決確定に至るまで賃金の支払を受けられず、乗務員としての就労もできない場合には、生活の困窮、専門技能の低下等回復し難い著しい損害を蒙るものと云わねばならない。
被申請人は、申請人らの賃金は高額であつて乗務手当相当額を差引いた残額だけでも生計の維持には事欠かないから、右手当相当額については支払を求める必要性を欠くと主張するところ、乗務手当が賃金額の約三分の二を占め、その全額を差し引くことは、従来の生活費を一挙に約三分の一に切り下げることとなつて、著しい生活の困窮をもたらすことは必至であり、既往の生活費等の出費を償なうためにはなお前記賃金の全額の支払を受ける必要があるけれども、将来の生計を最少限度維持してゆくためには月金一〇万円の収入をもつて足りるものと言うべく、右金額を越える分については仮処分の必要性を欠くものと認める。すなわち、金員請求の部分については既往昭和四一年二月までは右賃金の全額(右額の合計はそれぞれ主文二項(1)記載の額)、同年三月以降は毎月右賃金額の範囲内において金一〇万円(主文二項(2)記載の額)の支払を認めるをもつて足りる。
四、よつて申請人らの本件申請は、右限度において理由があるから保証を立てさせないでこれを容認し、その余を却下し、申請費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 橘喬 高山晨 田中康久)
(別紙(一))
申請の趣旨
一、申請人らが被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。
二、被申請人は、申請人小嵜誠司に対し昭和四〇年五月一日以降毎月二五日限り金一五一、八一二円を、同田村啓介に対し金一四一、八〇四円及び同年七月一日以降毎月二五日限り金一四四、四一三円を、同藤田日出男に対し金一四七、五五〇円及び同年七月一日以降毎月二五日限り金一四五、九四八円を、同丸山巌に対し金一五一、九三五円及び同年七月一日以降毎月二五日限り金一五一、七〇一円を、それぞれ本案判決確定に至る迄の間仮に支払え。
三、申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由
一、(当事者)
被申請人(以下「会社」という。)は、国際路線及び国内路線における定期航空運送事業等を営む株式会社であり、申請人らはいずれも、会社中央運航所乗員部に所属する運航乗務員であつて申請人小嵜は航空士、同田村は航空機関士、同丸山、藤田はいずれも副操縦士である。
二、(被保全権利)
会社は、昭和四〇年五月七日申請人らに対し懲戒解雇処分に付する旨の意思表示をした。しかしながら右解雇は次の理由により無効である。
(一) 本件解雇は、会社の申請人らに対する不当労働行為であり、労働法の公序に反する。
申請人らは日本航空乗員組合(組合員・約五二〇名。以下「組合」という。)の組合員であり、申請人小嵜は執行委員長、同田村は副委員長、同藤田は書記長、同丸山は執行委員・情報宣伝部長であるところ、会社は、組合が昭和三九年一一月一二日より一四日の間及び同年一二月二一日、二二日の両日にわたり行なつた争議行為の全般についての最高責任者であつたとして申請人らを懲戒解雇処分に付したのである。従つて本件解雇は、組合の正当な争議行為を理由とする解雇処分であり、明白な不当労働行為であつて労働法の公序に反し無効である。
(二) 本件解雇は、解雇権の濫用である。
申請人らにつき懲戒解雇処分に付されるべき事由は何等存在しないのであつて、本件解雇は解雇権の濫用であり無効である。
三、(賃金)
(一) 会社における運航乗務員の賃金は、基本給、家族給、乗務手当、乗務付加手当及び乗務日当からなり、毎月二五日に当月分の基本給、家族手当及び前月一日以降末日迄の乗務手当、乗務付加手当、乗務日当が支払われる定めとなつている。
(二)(1) 本件解雇当時の申請人らの賃金は次の通りである。但し、乗務付加手当及び乗務日当は昭和四〇年二月から四月迄の三ケ月間の平均(小嵜については後述のとおり会社が四月分を未払であるので、二月及び三月の二ケ月間の平均)である。
申請人
基本給
家族手当
(保障額)
乗務手当
乗務付加手当
乗務日当
合計
小嵜
三三、五二〇
四、二〇〇
一〇七、四六〇
二、二〇一
四、四三一
一五一、八一二
田村
二九、五六〇
〇
一〇七、四六〇
二、四六五
四、九二八
一四四、四一三
藤田
三二、二〇〇
二、九〇〇
一〇七、四六〇
一、一〇七
二、二八一
一四五、九四八
丸山
三一、三二〇
二、〇〇〇
一〇七、四六〇
三、四〇四
七、五一七
一五一、七〇一
単位円
(2) 乗務手当は乗務時間に応じて支払われるものであるが、会社の都合等により乗務できない場合もあることを考慮し、しかもこの手当が乗務員の賃金中に占める圧倒的な比重を重視して、労使の協定により、最低六〇時間分一〇七、四六〇円を保障することに定められている。
(三) 会社は、本件解雇の直後、申請人田村、同藤田、同丸山三名に対し、四月一日から同月末日迄の乗務手当、乗務付加手当、乗務日当の全額及び五月一日以降七日迄の乗務手当(一〇七、四六〇円の三〇分の七=二五、〇七四円)、同じく五月一日以降七日迄の基本給と家族手当(一ケ月分の二五分の六)を支払い、小嵜に対しては昭和四〇年四月二五日に同月分の基本給、家族手当、及び三月分の乗務手当、乗務付加手当、乗務日当を支払つたのみで、その後の賃金を一切支払わない。
四、(必要性)
(一)(1) 申請人らは労働者であつて、会社から支払われる賃金のみを生活の資としているところ、本件解雇により賃金を失ない著るしい強暴にさらされている。
(2) 会社は、乗務手当についてその必要性を強く争つているが、これは全く航空乗務員の賃金と生活を知らないか、これを無視した議論であるといわねばならない。会社における乗務員の賃金は、その労働の特殊な性質と特殊な生活状態に比べて決して高いものではない。しかも前項で述べたように、乗務員賃金の中で乗務手当は圧倒的な比重を占め、それを前提に乗務員の生活がなりたつているところから、一〇七、四六〇円の最低保障も必要となつているのである。したがつて、乗務付加手当や乗務日当はともかくとして、乗務手当のうち最低保障額は基本給と同じ意味をもつものというべきである。
(二) 航空機乗組員は、とくに高度の技術と熟練を要するばかりでなく、一旦乗務を中止するとその技術の維持及び回復は極めて困難である。そして、航空法上、「航空機乗組員は、運輸省令で定めるところにより、一定の期間内における一定の飛行経験がないときは、航空運送事業の用に供する航空機の運行に従事し、又は計器飛行、夜間の飛行若しくは第三四条第二項の操縦の教育を行つてはならない。」(第六九条)と規定され、同法施行規則(以下「規則」という。)では、航空運送事業用の航空機の運航に必要な最近の飛行経験として操縦士については九〇日以内における三回以上の離着陸(規則一五八条一項、他に同条二項も関係)、その他については運航に従事する日からさかのぼつて一年以内において機関士は五〇時間(規則一五九条一項)、航空士は国際航空の場合は五〇時間の飛行経験が必要とされている。(規則一六〇条一項二号)
以上の次第で、本案判決の確定をまつては、申請人らは回復し難い損害をこうむる虞がある。
五、よつて、申請人らは会社に対し労働契約上の地位保全及び毎月二五日限り賃金(小嵜については、昭和四〇年五月以降それぞれ毎月、前月分の乗務手当・乗務付加手当・乗務日当((以下「乗務手当等」という。))及び当月分の基本給・家族手当((以下「基本給等」という。))の合計額、他の三名については、昭和四〇年五、六月分の基本給等、同年五月分の乗務手当等の合計額より既に支払われた五月分の基本給等・乗務手当の一部((前記三(三)記載のとおり))を控除した残額及び同年七月以降それぞれ毎月、前月分の乗務手当等と当月分の基本給等の合計額)の支払を求め本申請に及ぶ。
(別紙(二))
答弁の趣旨
申請人らの申請を却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由に対する答弁
一、第一項(当事者)の事実は認める(但し、現在は会社従業員でない)。
二、第二項(被保全権利)の事実について
会社が申請人らを昭和四〇年五月七日懲戒解雇したこと、申請人らが日本航空乗員組合に所属し、それぞれその主張のごとき組合役員の地位にあることを認め、その余はすべて否認する。会社が申請人らを懲戒解雇したのは、申請人らが日本航空乗員組合の行なつた争議行為につき最高責任者たる地位にあつたこと自体を理由とするものではなく、そのような地位にあつて、著しい争議権の濫用に亘る不当な争議行為を企画・指令して実行せしめた事実に基づくものである。
三、第三項(賃金)の事実は認める。
四、第四項(必要性)の事実について
(一) 航空法(以下「法」という。)第六九条、規則第一五八条一・二項、第一五九条一項、第一六〇条一項二号に、それぞれ申請人ら主張のごとき規定があることを認め、その余はすべて争う。
申請人ら主張の各賃金種目のうち、乗務付加手当、乗務手当は、飽くまでも実際の乗務実績に対して支給されるものであつて、現実に乗務しない以上、支給さるべきいわれはないし、基本給、家族手当を合算した額丈でもそれぞれ一応の金額に達しているのであつて、これに乗務手当(保障額)を加算しなければ、申請人らの生活が破局に瀕するものとは到底考えられない。
(二) 申請人らは、航空機乗組員の場合は、一旦乗務を中止すれば、たちまちにして技能が消滅して、二度と運航に従事出来なくなるかのごとき趣旨を主張しているので、その然らざるゆえんを述べる。
(1) 航空機乗組員(航空機に乗組んでその運航に従事する航空従事者をいう。―法第六七条)は、運輸大臣による航空従事者技能証明(以下「技能証明」という。)と、航空機乗組員免許を受けなければならない(法第二二条)。
(2) ところで、技能証明は、法第二四条に列挙する各種の資格別に行われるものであつて、この内、申請人小嵜は一等航空士、申請人田村は航空機関士、申請人藤田は定期運送用操縦士、申請人丸山は事業用操縦士の資格をそれぞれ取得しているものであるが、この技能証明は、一度び取得すれば終身有効に存続するのであつて、法第三〇条に定める取消事由に該当しない限り、その効力を喪うことなく、勿論、現実に航空機に乗務すると否とを問うところではない。
(3) 又、航空機乗組員免許は、規則第六二条及び規則別表第四に定める身体検査基準に適合することによつて許与されるものであつて、之亦、現実に航空機に乗務しているか否かを問わない。そして、この免許は、法第三三条により、申請人藤田については有効期間六ケ月、その余の申請人については一年ということになるが、それは、引続き航空機に乗務している場合でも、六ケ月又は一年でその都度身体検査を受けて更新しなければならない反面、航空機に乗務していなくても、自ら身体検査を経ることにより、単独で自由に更新しておくことが出来るのである。のみならず、たとえ中断しても、再び必要を生じたならば、その際身体検査を受けて直ちに乗務することが出来るのである。
(4) 以上述べた通りであるから、申請人らは、一旦乗務を中断しても、仮に再び航空運送事業の用に供する航空機の運航に従事しようとすれば、いずれも短期間にその地位を回復することが出来るものであつて、決して、そのまま半永久的に航空機乗組員たることを喪失してしまうなどという訳のものではない。
現に、会社の航空機乗組員の中には、病気その他の事故により長期間乗務を中断した後、再び原職務に復帰した事例は枚挙に暇がないのである。
被申請人の主張
会社が申請人等を懲戒解雇したのは、申請人等が組合の行なつた争議行為につき最高の責任者たる地位にあつて、昭和三十九年十一月十二日より十四日までの間、及び同年十二月二十一日・二十二日の両日、著しい争議権の乱用に亘る争議行為を企画・指令して実行せしめた事実に基くものである。以下、その細目を明らかにする。
一、昭和三十九年十一月争議
(一) 争議の争点
昭和三十九年十一月争議の場合における労使間の争点は、次の二点であつた。
(1) 外人ジエツト・クルー導入問題
会社では、定期運航路線に使用するジエツト機として、ダグラスDC―八型機と、コンベア八八〇型機の二機種を採用しているが、このうちコンベア八八〇型機の日本人機長を養成するために昭和三十九年四月以降実施して来た乗員養成計画が予定通り進捗せず、そのため日本人機長の昇格訓練が大幅に遅滞し、従つて機長不足のために会社の事業計画遂行にも支障を来たす虞れが生じた。そこで、このような不測の事態に対処するためには、コンベア八八〇型機日本人機長の養成訓練にあてるため、六名の外人乗務員を同型機のセーフテイ・キヤプテン(教官兼機長)として投入することが必要となつたので、昭和三十九年九月、この六名の外人乗務員の訓練を開始するとともに、その旨組合にも通知した。
これに対し組合は、会社の措置は、会社・組合間の昭和三十八年八月二十四日附覚書第三項「外人ジエツト・クルーの雇傭は機長四名、航空機関士四名に限るものとする。」との規定に違反するとの抗議を申入れて来た。
そこでこの抗議に対して会社は、右覚書第三項は、外人ジエツト乗務員を無制限に雇入れるときは日本人乗務員の乗務時間が圧迫されて乗務手当を獲得する額が減少したり、あるいは、外人が優先して昇格の機会が減少したりして不利益を招く虞れがあるので、これを防止するための制限を設けた趣旨であるが、今回のセーフテイ・キヤプテン導入は、これによつて日本人乗務員の乗務時間数をはじめ、その他一切の労働条件に全く影響を受けることはないのみならず、却つて、この措置をとることにより日本人乗務員の機長の養成訓練を進捗させることが出来て、予定通りの昇格を達成出来るのであるから、実質上日本人乗務員の利益を促進する結果にこそなれ決して右覚書第三項に違反するものではないこと、および、現実の問題としても、会社は未だ雇入れのための訓練を始めた段階であつて実際に雇入れた訳ではないのだから、このセーフテイ・キヤプテンの導入が乗員の労働条件にどのような影響を及ぼすかについては、団体交渉で十分話し合つて円満な解決を図ることにしたいとの意向を表明したのであつた。
斯くして、労使間には十一月十二日第一回団体交渉が持たれたが、この席上、組合は、会社が現在外人乗務員の訓練を開始していること自体が覚書違反であるから、それが違反であることを承認することが先決であつて、会社がそれを認めない限り、いかなる話し合いにも応じないとの態度に終始し、会社が更に次回の団体交渉を申入れている矢先き、同日午後八時四十分何等の通告もなく全くの抜打ち的にストライキに突入してしまつた。
(2) カイロ・カラチ間航空士乗組み問題
会社では、昭和三十七年十月より南廻り欧州線を開設したが、この路線中カイロ・カラチの間は法規上は航空士を乗務させる必要のない箇所であるけれども、新しいコースであるため乗務員が馴れていないことを考慮して開設当初約四ケ月間を試験期間として航空士を乗務させる措置を講じていた。(このことは、当時の平本組合委員長も諒解を与えていた。)この試験期間が終つた昭和三十八年三月頃には、乗務員も馴れて来たので航空士を乗務させない編成すなわち操縦士による航法(パイロツト・ナヴイゲーシヨン)で十分運航出来る見通しを得たのである。そこで会社は、これを実施に移すに当り、本来乗組員の編成は会社の責任において決すべき事柄ではあるけれども、実際に乗務する者の意向を知る趣旨において、組合の意見をも聴取するという態度をとつたのである。ところが組合は、会社が先ず昭和三十八年三月頃組合に説明して協力を求めたのに対しては、六―七月頃のモンスーン期が終るまで実施を延期してもらいたいと答え、昭和三十九年四月、会社・組合共同の最終調査を申入れたのに対しては、丁度春斗期間中であるから時間的余裕がないと断つた。(これより先、昭和三十八年十月には、この路線に就航する機種の変更、乗務員の交替などの事情が重なつたので、慣熟を待つ意味で会社の方から実施を延期していた。)そこで会社は、七月下旬、会社単独で最終調査を行なつて、パイロツト・ナヴイゲーシヨン実施につき凡ゆる点から支障がないことに完全な確信を得たので、八月二十九日、組合に対して右調査の結果を詳細に説明するとともに、九月七日以降実施に移りたい旨申入れたのであるが、組合は、時恰も役員改選に差しかかつているので、九月十五日新執行部の成立まで待つてもらいたいとのことであつたから、会社は又しても九月二十四日まで猶予した。九月十六日、新執行部との団体交渉の席上、会社は改めて組合の意向を尋ねたところ、組合側は、何等具体的理由を示すことなく、唯単に反対であるというだけであつた。そこで会社は、過去二ケ年にもわたつて組合に十分説明もし、意見を提示する機会も与えて来ていることだし、技術的には全く不安はないことが確信出来るので、いよいよ九月二十日から実施することに踏み切つたのである。ところが、これに対して組合は、組合の同意なくして実施したのは労使間の信義に反するとして、会社の措置に反対したのであつた。
(二) 十一月争議における争議行為の態様
(1) 前項(1)において述べたように、組合は、昭和三十九年十一月十二日、午後八時四十分より突如、全く無通告で同日午後十時出発予定のロサンゼルス行八六二便の乗組員五名を指名ストライキに入れ、爾後、十四日の午後十時出発予定ロサンゼルス行六八便に至るまで、通算十一便三十六名について、次々と抜打ち指名ストを行なつた。
以下、その態様を各便ごとに詳述するが、その前に、国際線乗務員の各乗務における出発前の業務を明らかにしておく必要がある。
国際線の運航乗務員の場合、その乗務割は、各月前後半の二回にわけて決定され、各人はこの乗務割表に従つて次々と乗務するのであるが、その割当は、実施前に各乗務員に周知徹底せしめてある。而して、右乗務割表に従つて当日実際に乗務する際には、出発時刻の一時間三十分前に中央運航所乗員部乗務管理課に出頭の後同所運航管理部において出発前の準備作業を完了しなければならないことになつている。この準備作業の内容は、職種によりそれぞれ多岐にわたるのであるが、その本質上、極めて重要な作業であつて、これが完全に遂行されれば、その便の安全運航の半ばは達成せられたものと言つても過言ではない。
いまその概略を示せば、
機長・副操縦士・航空士の場合は、
(イ) 出発時刻一時間三十分前に乗務管理課に出頭し、出頭の確認を行ない、乗務旅費、航空時計(航空士のみ)を受領する。
(ロ) 運航管理課において、
気象資料の検討、運航管理者と協議の上飛行計画を決定
緊急避難用器具・脱出口・脱出要領・分担等について乗務員全員で打合せ、
当該路線の途上及び途中飛行場に関する特別の情報の検討(ノータム・チエツク)
燃料搭載量・使用航空機の状況・搭乗旅客の数・病人等に関する必要情報をそれぞれ確認する。
(ハ) 飛行場に赴いて、
検疫・通関・出国承認等の手続を完了する。
(ニ) 飛行機に到着し、
飛行機の外部点検、内部点検を終り、操縦室内の所定位置に着く。
機長・副操縦士は五十八項目にわたり、又、航空士は十六項目にわたつて、それぞれ各計器その他操縦系統を点検する。
搭載重量並びに搭載物配置表によつて重量と配置状況を確認する。
航空機関士の場合は、
(イ) 前記機長等の場合と同様出頭を確認して乗務旅費を受領して後、
(ロ) 運航管理課において
運航管理者より飛行計画の説明を受け、燃料搭載量を確認し、
フライト・エンジニア・メモによつて搭乗機の状態を把握する。
(ハ) 飛行場に赴いて、
検疫・通関・出国承認等の手続を完了する。
(ニ) 飛行機に到着し、
燃料搭載量を標尺によつて実地に点検し、
機体外部を七十四項目にわたつて点検、
機体内部を百十二項目にわたつて点検、
整備士より航空日誌を受領して機体の状態整備状況を確認する。
等々、極めて充実し、かつ、航空機の安全運航について不可欠且つ重要な作業内容に満ちているものである。
運航乗務員等は、時刻表上の出発予定時刻以前一時間三十分の間に、これだけの作業を完了し、しかる上で初めて管制塔の出発許可を得て飛行機が動き出す段取りとなるのである。
(2) そこで、次に組合が連発した抜打ち指名ストの実状を述べるが、そのいずれもが、右述のごとき重要な出発前の準備作業を半ば以上完了して後に突如として姿をくらます等、謂わば、まつたく出鱈目としか言いようのない乱脈を極めた争議行為を敢て行なつたものであつて、この指名ストライキのために、各便はいづれも大幅な遅延を生ずるか、若しくは代替乗務の手配を講ずることも出来ないままに運航取消を余儀なくされ、運航ダイヤは大混乱を生じて、乗客に多大の迷惑を及ぼしたのである。
(イ) 十一月十二日午後十時発八六二便ホノルル・ロスアンゼルス行
この日行なわれた会社組合間の団体交渉は午後三時頃に終り、今後なお引つづき第二回の団体交渉を持つて論議を続けようということになつていたのであるが、同夜午後十時発ロスアンゼルス行八六二便においては、牛島機長、右京副操縦士、宮川航空士、井原機関士及び同乗訓練のため中島副操縦士の五名が乗務することになつていたところ、牛島機長は午後八時頃、右京・宮川・井原の三名は午後八時三十分頃それぞれ出頭して、いづれも全く平常通りに出発前準備作業を行ない、午後九時頃には運航管理課での業務を完了して室外へ出て行つたが、その後ついに飛行場には姿を現わさなかつた。
会社側では、右四名がストライキに入つたなどとは全然知る由もなく、特に運航管理課では同人等はそのまま飛行場に赴いたものとばかり思つていたところ、午後九時二十分頃になつて運航統制室から、組合がストライキに入つたらしいとの連絡を受けた。そこで事の意外に驚き早速組合事務所に職員を派遣して事の真偽を問合せたけれども、いずれ社長から話があるだろうから言えないとのことであつた。同事務所には、右四名が八六二便に乗務する際携行するフライト・ホールダーが置去りにされていたが同人等の姿は見えなかつた。(フライト・ホールダーとは、飛行計画・航路図等運航に必要な書類を入れた書類入れである。)他方、その頃には飛行場側からは、既に乗客に対しては搭乗の案内をしなければならない時刻になつているのに、まだ乗務員が来ないのはどうしたのか、早く乗務員をよこせと矢のような催促が殺到して来た。そこではじめて、右四名が運航管理課を出た後、飛行場には行かないで、ストライキに入つたものであることが判明したのであつた。又、同乗訓練の中島副操縦士からは、結局何等の連絡がなく最後まで姿を現わさなかつた。
後から判明したところによれば、同夜午後九時頃、社長自宅宛に申請人小嵜委員長より電話があつて、午後八時四十分以降八六二便乗務の五名を指名ストライキに入れる旨を通知して来たものであつた。
このように当日の団体交渉においては、交渉はなお継続することに決定していたことであるし殊に八六二便では、訓練のために乗務することになつていた中島副操縦士を除くその余の乗務員は全員まつたく平常と変ることなく出発前の準備作業をとり行なつていたので、会社側はストライキが発生するなどとは夢にも思つていなかつたところであり、同人等が運航管理課を出て、いずこかへ姿を消してしまつた後も、さつぱり事情がわからないという状態であつたので乗客に対して事情の説明をすることも出来なければ、突嗟に然るべき対策を講ずることも出来なかつた。然し、飛行場では、ホノルルあるいはロスアンゼルスに向けて旅立とうとしている多数の旅客が既に出国手続も完了して搭乗を待ち構えているのであるから、会社としては当面、何としても八六二便を出発させなければならず、急拠管理職乗務員を緊急手配して呼出し、乗務を命じた。然しながら、乗務員が全部交替すれば出発前の準備作業を全部やり直さねばならぬことは勿論であるから、結局この八六二便は、二時間五分遅延して十一月十三日午前零時五分、漸くにして飛び立つて行つたのであつた。
そして、八六二便が漸く出発した後、十三日午前零時五十九分、組合は同便の乗組員全員について前記ストライキを解除する旨を通告して来た。
(ロ) 十一月十三日、午前九時二十分発、七一五便香港・バンコツク・シンガポール・ジヤカルタ行
同便の乗務員は、上西機長・宮田副操縦士・村田航空士・榎本機関士であつたが、全員定刻(出発前一時間三十分)に出頭し、何事もなく出発前の準備作業を遂行して運航管理課を出て行つたが、午前八時二十分、先ず村田航空士について、八時十分以降ストライキに入れる旨連絡があり、次いで八時三十分、他の三名をもストライキに入れる旨の連絡があつた。会社側は、村田航空士のスト通告を受けたので、先ず、管理職航空士の緊急呼出しの手配をしたが、十分後には他の三名についてもスト通告があつたので、これに対しても代替乗務員を重ねて緊急手配をしなければならなかつた。
ところが、これ等管理職乗務員が間もなく乗務管理課に到着するであろうと思われる頃、午前九時になつて、組合は前記四名全員について、突然、ストライキ解除を通告してきた。
会社としては、既に代替乗務員の手配も終つていることではあつたが、その到着を待ち、更に、出発前準備作業を繰返すことによる大幅の出発遅延が乗客に及ぼす迷惑を思い、前記緊急呼出しが徒労に帰するのも忍んで、右四名に再び乗務を命じたが、結局、七一五便は、午前九時五十五分、三十五分の遅延で出発した。
(ハ) 十一月十三日、午前十時発、八〇六便、ホノルル・サンフランシスコ行
同便に乗務を命ぜられていた乗務員四名の内、菅野副操縦士、箕輪航空士の二名のみについて、出頭時刻である午前八時三十分にストライキの通告があり、この両名のみは出頭しなかつた。
会社は早速、両名の代替乗務員を検討したが、適当な代替要員を得られないまま、遂に午前九時二十三分、同便の運航を取消さざるを得なかつた。そして、運航取消後、午後一時に至つて、組合は、右菅野、箕輪両名のストライキを解除した。
(ニ) 十一月十三日午前十一時発、七三五便、香港行
同便は、増子機長(管理職)、坂西副操縦士、野村航空士、八木機関士の乗務であつたが、いづれも定刻に出頭して、定められた通りの出発前の準備作業を全く平常の如くに遂行し、乗員送迎用の自動車に乗り込んで飛行場に向け出発した。そこで、運航管理課では、この便は幸いにしてストライキなしで無事運航出来るものと信じていたのである。
ところが、午前十時二十分頃、東京空港支店より運航管理課に対して、七三五便の乗務員は飛行場に着いて税関のところまでは来たらしいが、増子機長以外の者はその後行方がわからず、飛行機のところへも来ない、乗客から、一体どうなるのかと猛烈な苦情を受けているから、早急に確認して貰い度いとの要求が来た。驚いた乗務管理課では、直ちに組合事務所に電話したところ、小嵜委員長は、平然として、坂西・野村・八木の三名は午前十時以降ストライキであると答えた。
会社は、右三名に代る管理職乗務員を緊急手配して代替乗務を命じ、午前十一時十二分、同便は出発した。そして、同便出発後、組合は、右三名のストライキを十一時三十分以降解除する旨通告して来た。
(ホ) 十一月十三日、午後零時発、八一六便、ホノルル・ロスアンゼルス行
同便は相沢機長・藤田副操縦士・猪俣航空士及び神尾機関士(管理職)の四名が乗務することとなつていたが、いずれも平常通り出頭して出発前の準備作業も遂行し運航管理課から飛行場に赴いた。
運航管理課では、前記七三五便の乗務員が運航管理課から飛行場に赴きながら、俄かにストライキに入つてしまつたので、この八一六便についても心配し、午前十一時二十五分、態々組合事務所に電話して確めてみたが、同便は指名ストではない旨の返事があつた。
ところが、その直後、十一時三十分になつて、組合は、相沢・藤田・猪俣の三名を指名ストライキに入れる旨通告して来たのである。
会社側は、さきの問合せ直後のスト通告であつたので、前後措置に苦慮したが、急拠代替要員を手配し、出発前の準備をやり直して、午後零時四十八分、漸く同便を出発させることが出来た。
そして、その出発後、午後一時五十分、組合は右三名のストライキを午後一時以降解除する旨通告して来た。
(ヘ) 十一月十三日、午前十一時二十分発、三二三便福岡行
これまでの指名ストライキは、全部国際線に関して行なわれて来たが、組合はここに突然国内線のストライキを混えて来た。国内線の場合、出発前の出頭時刻は、一時間前ということになつているが、この便についても予定された乗務員等は全部規定通りに出頭して出発前の準備作業を遂行していたところ、出発時刻の十三分前、午前十一時七分になつて組合は、中村副操縦士一名のみについて、午前十時四十五分以降ストライキに入れる旨を通告して来た。
会社側は、出発直前のこととて不意打ちに驚いたが、兎も角も代替乗務員に増田副操縦士を命じ、一時間三十三分遅延の午後零時五十三分、漸く、この便を出発させることが出来た。
そして、組合は、午後一時五十分、右中村副操縦士の指名ストライキを、午後一時以降解除する旨通告して来た。
(ト) 十一月十三日、午後十時発、六六便、ホノルル・ロスアンゼルス行
同便の乗務員については、先ず、午後八時三十三分、池内航空士について指名ストライキを、続いて同三十七分、吉永副操縦士について指名ストライキを通告して来た。
会社は、直ちに右二名の代替要員として管理職乗務員に対し緊急招集をかけて、出発前準備作業を完了したが、矢張り予定出発時刻には出発出来ないでいたところ、午後十時二十分頃、池内航空士のみはストライキを解除する旨通告があり、再度同人に乗務を命じてこの便を出発させたが、結局、五十分の遅延を生じた。
吉永副操縦士については、遂にストライキ解除の通告はなかつた。
(チ) 十一月十四日、午前八時五十分発、九五五便ソウル行
同便には、桑原機長、石橋副操縦士、山崎機関士が乗務することになつていたが、午前七時五十分以降、一せいに指名ストライキに入つた。
ところが同便には、韓国人で、日本滞在期間が切れて本国に帰らねばならない旅客が相当数予定されて居り若し、ストライキのために同便の運航が取消の已むなきに至るようなことがあれば、単に一般旅客に迷惑を蒙らせるのみに止らず、両国間の政治的問題にも係る要素を持つているので、会社は組合に対して、ストライキ解除方を申入れ、午前八時二十分、解除とすることが出来た。然し、この間の指名ストライキのため、同便の出発は五十分遅延の午前九時四十分となつた。
(リ) 十一月十四日、午前十時発、八〇八便ホノルル・サンフランシスコ行
同便に乗務を命ぜられていたのは、谷脇機長、菅野副操縦士、宮川航空士、佐々川機関士の四名であつたがいずれも定刻に出頭して平常通りの出発前準備作業を遂行し、何事もなく運航管理課を出て行つたが、そのまま、飛行場には姿を見せないままに、十時すこし前、先づ佐々川機関士を指名ストに入れる旨の通告があり、続いて、その余の三名も全部ストライキの通告があつた。
そこで、早速、代替乗務員として、平谷機長、中島副操縦士、大野航空士、佐藤機関士を決め、緊急招集の手配をした。このうち大野航空士は、自宅が遠距離のため、特に管理職である高橋航空士も同時に招集したが平谷・中島・佐藤・高橋の四名が揃つたので出発前準備作業を行い飛行場に赴かしめたところへ、大野航空士が出頭して来た。そこで、高橋と大野を交替させ大野を勤務させることとし、同人をして航空士としての出発前準備作業を遂行せしめたが、その終了後同人が運航管理課を出て行くや、途端に、組合は大野を指名ストライキに入れる旨の通告をして来た。この時は既に午後零時四十七分になつていた。
会社側としては、最初の宮川航空士が、出発前準備を了えたところで指名ストに入れられ、替つた大野航空士についても、又、出発前準備を了つて後に指名ストライキとなつたので、重ね重ね時間を空費し、既に甚しい遅延が生じていることとて、組合の極めて不公正なやり方に対し憤激したが、やむを得ず一旦飛行場から引返していた高橋航空士を再度飛行場に送り届けて、漸く同便を出発させた。時に午後一時四十四分、出発予定時刻から三時間四十四分という大幅遅延を已むなくされたのであつた。
なお、右谷脇・菅野・宮川・佐々川・大野のうち、大野航空士のみは午後一時三十七分ストライキ解除となつたが、他の四名については何の連絡もなく、十四日午後六時半頃、会社側より問合せた結果は、谷脇・佐々川はなおストライキ中であるが、他の三名は解除になつている、解除の時刻は不明であるとの答えであつた。
(ヌ) 十一月十四日午前十一時発、七三七便香港行
同便の乗務員は、西郡機長(管理職)、金高副操縦士、中井航空士、早野機関士(管理職)及び香港から次の便に乗務するために同乗して行く杉本航空士の五名であつたが、すべて定刻に出頭し、規定された通りに出発前準備作業を進めていた。
ところで、この便には、中共向、中国人の遺体十五体が搭載されることになつており、到着地では盛大な出迎えの行事が行なわれることになつていた。そこで、若し同便が、欠航あるいは大幅な遅延を生ずるようなことになれば、これ等の行事は全部予定が狂つてしまうので、国際問題にもなり兼ねない一大事を惹起する恐れがあつたから、会社側は午前十時二十分頃、これを組合側に知らせ、幸いにして未だ指名ストライキに入つていないが、この便については是非協力を得たい旨申入れた。
然るに組合側は、会社の右申入れに対する返事として、七三七便の乗務員は金高・中井・杉本の三名共午前十時十分以降指名ストライキに入れてあるから只今(午前十時三十五分頃)通告しますと言うことであつた。そこで、会社は、やむなく代替乗務員の手配をし、緊急呼出しをかけたが、当然のことに非常な時間を要し、同便が出発したのは、三時間五十九分遅延の午後二時五十九分であつた。
そして、前記中共向け遺体十五体は、何時出発するかわからないような飛行機に載せて行くわけには行かないというので、外国会社の便に移されてしまつたのであつた。
右ストライキの三名については、その後何等の通告もないので、十四日午後六時半頃、照会したところ、金高・杉本は依然ストライキ中、中井は解除になつたが解除時刻は不明とのことであつた。
(ル) 十一月十四日、午後十時発、六八便ホノルル・ロスアンゼルス行
同便には、倉田機長、柳田副操縦士、花田航空士、鈴木機関士が乗務することとなつており、又、待機要員として野村航空士が呼出しをかけてあつた。
ところが、野村航空士は全然姿を見せず、他の四名は平常通り定刻に出頭して出発前準備を遂行して運航管理課を出て行つたが、そのまま飛行場には行かず、出発前三十分の午後九時三十分になつて、鈴木については九時二分以降、倉田・柳田・花田については九時十分以降指名ストライキ中である旨連絡が来た。
会社は、この乗務員の代替要員について最後まで散々苦心したが、結局充足することが出来ず、出発時刻も過ぎた午後十時四十一分になつて、遂に欠航を決定する外はなかつた。
なお、前記野村航空士については、十五日午前一時、ストライキ解除の通知が来たがそもそもストライキに入る旨の通知が来ていないので、その際質問したところ、十四日午後六時五十分以降ストライキに入つていたものであるとのことであつた。又、花田航空士についても十五日午前一時、ストライキ解除の通知があつたが、その余の鈴木・倉田・柳田の三名については、到々、最後までスト解除の通知もなかつた。
(三) 十一月争議の不当性
以上述べて来た組合の昭和三十九年十一月十二日―十四日間の争議行為は、その目的と態様との両面において、著しく争議権を乱用した不当な争議行為と言わねばならない。
(1) 目的の不当性
(イ) 前述の通り、十一月の争議行為は、外人ジエツト・クルー問題と、カイロ・カラチ間航空士乗務問題とに関して行なわれたのであるが、元来、外人ジエツト・クルー問題について会社がとつた措置は、決して組合主張の昭和三十八年覚書第三項に違反するものではない。然し、覚書第三項に抵触するか否かは兎も角としても、会社はかねてより組合に対して、この措置の必要已むを得ざるものであることを再三反覆して説明し了解を求めて来ており、第一回団体交渉においても、更にその説明を繰り返すと共に、今回の措置が組合員の労働条件に果していかなる影響を及ぼすことがあるか、仮に何等かの影響ありとすれば、それに対してどのような対策を講ずべきか等について実質的な協議を尽して双方満足出来る解決点を見出したいと誠意を以て交渉を慫慂したのであるが、これに対して組合は、会社が覚書違反を承認しなければ一切の実質的協議に応じられない、何よりも先ず覚書違反であることを認めよと要求して、第一回団体交渉終了直後、たちまちにして、専らこの組合解釈を強制するためのみに、前記のような猛烈かつ乱脈極まる指名ストを激発したのである。
思うに、このような覚書の条項の解釈に関する争いは、本来、相手方に対して力を以て強制すべき筋合いのものではない。仮に相手方が力に屈してその解釈を肯認したからと言つて、それだけでその解釈が当を得たものとなる訳のものではないからである。従つて、かかる紛争は、仮に双方の見解が対立し膠着した場合でも、これを直ちに争議行為に訴えて自己の主張の貫徹を図るべきではなく、須らく第三者機関の公正な判断に委ね、その判定をまつて善後処置を互に協議し決定することこそ正当な途と言わねばならない。この意味において、本件覚書解釈問題は、本質的に争議行為には親しまない紛争と言うべく、然るにも拘らず敢て実力を行使して会社に屈服を迫るのは、明らかに争議権本来の趣旨を全く逸脱した、権利乱用の不当な争議行為と言わなければならないのである。
又、カイロ・カラチ間航空士乗務の問題にしても、前述の通り会社は、乗務編成問題が本来は会社の専決事項に属する事柄であるにも拘らず、敢て組合の意見を尊重して、何回も延期に延期を重ね、その間には厳密な最終調査まで繰返して技術的に何等の不安もないことを確認した上で協力を求めているのであつて、これを、まるで理由もなく拒否して実力を行使してまで会社の業務執行を阻止しようとするのは、これ亦、法の保障する争議権の本質に著しく背反する権利乱用の不当な争議行為と言わざる得ない。
(ロ) 更に又、この争議行為は、労使間の団体交渉の経緯に照らして、争議権の乱用と言うべきである。
一体、憲法の保障する団結権、団体交渉権、争議権は、それぞれ別個独立に、それ自体が目的として保障されているものではなく、相互に目的と手段の関係に立つものであつて、就中争議権は、団体交渉における労使の対等を担保し、団体交渉を有利に進展させるための手段たる本質を有する、換言すれば「団体交渉のための争議」であつて、「争議のための争議」であつてはならないのである。されば、争議権の行使は、労使双方が団体交渉において十分に論議を尽し、労働条件に関する双方の主張が完全に対立して解決の方法が途絶した段階において初めて正当に許されるものと言わねばならない。
然るに本件の場合組合は、会社が労働条件に関する影響並びにその対処方法について協議を切望しているのに専ら解釈論議のみを強硬に主張して実質的論議を頭から拒否し、会社が引続き協議を申入れている矢先き、何等団体交渉を尽すこともなしに、たちまちにして最も強烈な無通告抜打ちストに突入してしまつたのであつて、これでは、争議権保障の趣旨を根本から蹂躪した不当極まる争議行為という外はないのである。
(2) 態様の不当性
(イ) およそ、ストライキの本質は、「労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段・方法は、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにある」ことは、最高裁判所が再三反覆して判示している通りである。換言すれば、ストライキが争議手段として意味を持つのは、労働組合が、その把握している労働力を引上げることによつて使用者側に対し業務の正常な運営の阻害を強い、この圧力によつて要求貫徹を期するものであり、かつ、それ以上のものではないのである。
しかも、そのいう労働力の引上げといえども、無制限に許されるというものではなく、公共の福祉の立場から一定の制約をうけるばかりでなく、当該企業の公共的性格や業務運営の実態に照して、引上げの時期・方法その他の態様が余りにも恣意的に過ぎ、又は偽計に等しい方法等を用いることによつて、労務の停止に伴つて通常生ずる業務上の支障を遙かにこえて、争議行為の相手方を不相当に混乱に陥入れ、ひいてはその業務の全部又は一部をそのために麻痺せしめるような結果を発生せしめるときは、そのような争議行為は法が労働者に右権利を保障した趣旨をこえて、徒らに相手方に不必要な損害を加えんとするものであるから、争議権の乱用として到底許されないところである。
一般に指名ストを適法とする学説に於ても、右ストは不公正又は、綺麗でない争議行為であるとして望ましくないものとされているが、前述した如き組合の十一月十二日―十四日の間のストライキは、唯単に、限られた員数の労働力を引上げることによつて、結果的な業務阻害の発生を期するに留らず、極端な無通告抜打ストライキの方法によつて、使用者を欺瞞し、奔命につかれしむることを狙つて積極的な加害行為を敢て強行したものと言わねばならない。
(ロ) いうまでもなく、被申請人会社は、日本航空株式会社法なる特別法に基づいて設立された株式会社で、資本金の約五七%は政府出資にかかり、特に国際路線については、日本国における唯一の会社として国際社会において日本国を代表する航空会社(ナシヨナル・キヤリアー)たる地位と責任を負うものであつて、労働関係調整法(以下「労調法」という。)第八条第一項第一号によつて公益事業としての指定をうけている会社である。
かかる公益事業に従事する者は、労使いずれの立場にあつても、事業の公益性を尊重し、可及的に争議行為を回避して、公衆の利益を守ることに努力すべき社会的責務を負担するとともに、やむを得ず争議行為に出る場合であつても、常に公益事業の担当者としての良識と節度をもつて行動することが強く要請せられているのであるが、就中、現実の争議行為の遂行に当つては、事業の性質上相当の期間内にその時期態様等を予め使用者に通告して、公益事業遂行の責任者としての使用者をして、右ストによつて公衆の蒙るべき被害を可及的に防止するための措置を講ずべき最小限の時間的余裕を与うべき責務があるといわなければならない。かくの如き通告も行なわず、既に乗客が搭乗に必要な諸手続を行なつている最中に、抜打的に而も会社側がストであるか否かも容易に知り難い段階を選んで、当該機の乗員を指名ストに入れることは、使用者から前記公益事業の経営者として当然負担すべき「公衆の損害避止の処置をとる機会」を理由なく奪うものであつて、到底許されない争議行為と云うべきである。右のことは、本件のごとく労調法第三七条による形式的予告がなされている場合も同様と解すべきである。
(ハ) すなわち、会社では毎日国内線、国際線ともに多数の出発便があるのであるが、組合の争議行為はそのいずれの便について、乗務員の中の誰に指名ストライキをかけるかを一切秘匿し、殆どすべての場合に各乗務員等は平常と全く同様に定刻に出頭して出発前準備作業を滞りなく取り行ない、会社側がこの便については指名ストライキは行なわれないのではないかと考え始めた頃になつて、突如指名ストライキに入れ、而も、大部分、それを、運航管理課から飛行場に行く途中、会社側が最も知り難い段階で、何処へともなく姿をくらまさせてしまうと言う方法で実行している。十三日の八一六便の場合のごときは、会社が態々問合せたのに対してストライキではないと回答した五分後にストライキに入れているのである。かくの如きは、殊更使用者を瞞着して、その錯誤に乗じて之に打撃を与えんとする極めて卑劣な争議手段であるとまで極言できるのである。以上のことは、その他の場合も同様であつて、同じくストライキに入れるにしても、単に指名スト該当者をして単純に労務を放棄させるだけでなく、それが、会社にとつて最も混乱を大きくし、二重・三重の被害を故意に惹起せしめるような方法を採つている。そのことは、殆どすべての場合に運航管理課での出発前の準備作業が全部完了する時期を殊更見すましてストライキに入れ、それ迄の会社側の準備作業を故意に無に帰せしめている点にもはつきり現われているばかりでなく、十一月十四日の八〇八便においては、本来の乗務員たる宮川航空士を出発準備終了の段階でストライキに入れたばかりでなく、態々遠方から緊急招集した代替乗務員の大野航空士を、その出頭と同時にではなく、態々出発前の準備作業を了えた段階において初めてストライキに入れる等、極端な積極的加害の意図を露呈しているのである。
(ニ) 一体、飛行機による旅行の場合、特に国際路線ともなれば、乗客は全部予約客であり、又、一般に利用者は夫々重要な用件を持つて、予め打合された日程と計画のもとに旅行しているのが通常であるから、搭乗予定機の欠航又は著しい遅延によつて、その予定が狂うときは、その影響するところは当然極めて甚大なものとなるのは言うまでもない。而も飛行機旅行では、鉄道等の運輸機関の場合と異り偶々予定した便が利用出来ないとなつたとき、他にこれに代り得る交通機関がない。時に併行する他会社の便がある場合でも、すべて予約制であるから、突嗟の場合、必ずしもその便に座席を獲得出来るとは限らないのである。一度予約した便に搭乗出来ないとなれば、爾後、他社接続便の予約も、ホテルの予約も、面会の約束も全部大幅な変更取消を余儀なくされることは明白である。
而も、外国旅行の場合は、通常多数の見送り陣を伴なうのが常であり、出発便の遅延・欠航は、単に搭乗する乗客だけではなく、これ等多数の見送り人にも直接間接多大の迷惑をかけることとなるのである。
このような飛行機旅行の特殊性から、会社側としては出発便の変動には常時極度に神経を使い、何等かの都合で遅延あるいは欠航等を生ずる場合は、極力事前に予約客のすべてに連絡をとり、あるいは、遅延・欠航の理由見通しを説明して乗客を他の便に斡旋したり、他会社の便に座席を獲得したりする必要があると同時に、時には会社側でホテルを用意し、あるいは遅延時間待合せの場所を特別に設定したりして極力利用者の被害を最少限に止むべく最善の策を講じているのである。
会社は、日常業務の過程において、実際にいつもこのような業務活動を行なつているし、組合も亦、そのことを十二分に知悉しているのである。
かかる措置をとることは、上記(ロ)に述べた如く、公益事業の経営者として一般利用者に負担している社会的責任であることはいうまでもないが、同時に亦専ら利用者に対するサービスの提供をもつて事業としている被申請人の如き定期航空を業とする会社においては、飛行機が定められた時刻に確実に運航するや否やに対する公衆の信頼や右に関連する会社のサービスに対する評価こそが事業の盛衰を決定するメーターであり、言葉通り、企業運営の基盤は公衆の会社に対する信用度にあるといつても過言ではないのである。従つて、ストライキにしてその態様が公衆の利益を全然度外視し、却つてこれを愚弄するが如きものである場合は、右ストライキによつて生ずる財産的損害にもまして、使用者の蒙る信用上の無形の損害は容易に恢復しがたいものがありその被害の程度は測りがたいものである。
然るに組合は、定期航空事業のこのような特殊性を百も承知の上で、否むしろ百も承知の上なればこそ、会社として事前に公衆の迷惑を最少限に喰止める手段を講ずるいとますら与えないような方法でこの争議行為を展開したのである。会社が組合の争議行為に対処出来ないということは、とりもなおさず、直ちに会社の飛行機を利用しようとしている一般公衆が甚大なる迷惑を蒙るということに外ならない。組合は、一応平日通りの操業を行なう如く装い乍ら随時随所に指名ストを行なうことによつて、会社を混乱に陥入れ業務の一部を麻痺せしめただけでなく、当該機の利用者を始め一般公衆に対しても、予期しない状態の下においてストライキを敢行することによつて通常発生する以上の極度の迷惑を蒙らしめたのである。かかる争議行為は公益事業なるが故に使用者が負担する社会的義務を尽さしめないばかりか、労務の停止に伴う通常の損害をこえて会社存立の基盤である利用者の会社に対する信用という無形の財産に容易に恢復し難い大打撃を与えることを目的とし、又は少くとも認識して行なつたものであつて、正当な争議権の範囲を逸脱したものと言わざるを得ない。
(ホ) 組合がかかる争議行為を敢て強行したことについて、若しこのような手段・方法をとるのでなければ、組合として争議行為の実効を期し得ないような特別の事情があつたとでも言うのなら、なお若干は宥恕すべき点があるかも知れない。
然し、組合は、会社の運航乗務員の殆どすべてを擁しており、而も、その労働力は極めて特殊な技能に基づくものであるから、一度組合がその把握する労働力を引上げるときは、会社は他のいづこからも、その代替労務を調達出来る見込みはない。若干名の管理職乗務員も、代替労務という面から見れば全然論ずるに足りないのである。
そうとすれば、組合は、単純にその把握する労働力を引上げるだけで、ただちに会社の全飛行便を停廃せしめる実力を持つているのであつて、争議行為の効果としては他に類例を見ない程強力かつ完璧なものと言うことが出来る。争議行為の内容を、現実に行使する時よりも遙か以前から公然と明示していたとしても、この実効は聊かも減耗するところはない。決して、本件の如き無通告抜打ちストライキを許容しなければならないような事情は認められないのである。
結局、いずれの面から見ても組合の争議行為は、ストライキの本質を著しく逸脱した、争議権乱用に亘る不当な争議行為であると言う外はない。
二、昭和三十九年十二月争議
(一) 争議の争点
前記十一月争議に続いて、組合は再び争議行為を行なつたが、この争議における組合の要求は、昭和三十九年度賃上げ要求であつた。然し昭和三十九年度賃上げについては、既に同年六月十一日、会社・組合間に完全な合意に到達しており、実質的には全く解決したものであつたにかかわらず、組合は、敢えてこの合意を一方的に覆して、再度極めて大幅な賃上げ要求を突きつけ、更にその要求を貫徹するためと称して争議行為に及んだのである。
(1) 第一次要求の妥結
組合は、昭和三十九年度賃上げ問題について、同年三月十日、基本給について三八・一%(平均一二、八二五円)、乗務手当について三七・九%(平均三三、六八〇円)、乗務日当について四〇・九%(平均一、八九八円)、合計三八%(平均四八、四〇三円)の引上げを骨子とする賃上げ要求を提示した。爾後、この要求について、三月三十一日を第一回として六月四日までの間に十七回の団体交渉を重ね、その間会社は第三次回答まで譲歩したが、六月五日いわゆるトツプ会談において更に組合の意見を容れた細部修正を行ない、ここで労使間の最終的意見調整が行なわれ両者間に一応の合意をみた。かくて、組合側はこれより争議収拾に向う旨の意見を表明し、六月九日には闘争委員会を開いて争議の収拾を決定、六月十日には代議員会を開いて会社回答受諾を決定すると共に同日委員長名を以て今次春闘に関する一切の闘争指令並びに闘争指示を解除し腕章着用を停止する旨の指令を発する等、妥結のためのすべての手続を完了した上で、翌六月十一日、組合委員長より社長ならびに労務担当常務取締役に対しそれぞれ別個に、代議員会の決議に基づく組合の正式の意思表示として、会社回答を受諾する旨の組合の正式決定を通告してきた。(因に、組合の規約上、争議の妥結権は、代議員会の専決事項とされている。)すなわち、ここにおいて昭和三十九年度賃上げ問題に関しては、労使間に完全な合意が成立したのである。
このようにして、組合の三十九年春闘要求については、労使間に十二分の話し合いが行なわれ、最後にはトツプ会談まで開いて相互の意思疏通につき遺憾なきを期し、組合側も態々代議員会を開いて慎重に審議を尽した上受諾を決定したものであるから、右六月十一日の合意成立には手続上何等の瑕疵も存しないことは明白と言うべく他面、その合意の内容も亦、交渉過程において若干の変遷はあつたものの結局は組合の当初要求の全部について、満足すべき解決をみているのであるから、これによつて今次春闘要求は完全に妥結したと言うことが出来るのである。
そこで会社は、六月二十二日、右合意に基づく妥結の内容を成文化し、調印のためこれを組合に送付したのであつた。
(2) 新要求の提出
然るに組合は、右妥結に基づく協定案を拒否したばかりか、六月二十九日文書を以て会社回答を受諾出来ない旨通告して来た。一方、七月一日には執行部全員が総辞職し、九月十五日新執行部が成立したが新執行部は、十一月四日に至り昭和三十九年度の賃上げ要求として新しい要求を提案してきた。
この要求内容は、基準給について一一%(平均三、八二〇円)乗務手当について一一四・八%(平均一三〇、四六二円)、乗務日当について二九六%(平均一五、七〇八円)、合計九六、三%(平均一五〇、〇〇〇円)という驚くべき大幅要求でありもとよりさきに六月十一日妥結の前提となつた春闘要求とも、全然別個のものであつた。
会社はこれに対し、六月十一日の妥結は、正式の調印迄には至らなかつたが両当事者それぞれを代表する有権的な正規の機関によつて完全な意思の合致を見て昭和三十九年賃上げ要求問題は右合意により全部解決したものであるから、これを一方的に破棄して新要求を提示することは労使間の信義を根本的に破壊するものであり、到底肯認出来ないと主張したが、十二月十日より開かれた団体交渉の中では、前記六月十一日の妥結内容については一応調印し、然る上で、十一月四日附の賃上げ要求は、春闘妥結後の新規要求として協議したいと提案した。然し組合が春闘はまだ終結していないことを認めない限りは新要求についての趣旨説明にも応じられないと強硬に主張し、十二月十五日には、会社が再三にわたり団体交渉を申入れたのに対しても、種々の条件を構えて更に応じようともしなかつた。
他方組合は、十一月四日の要求提出後、いまだ会社の回答もなく、団体交渉も開かれないうちに、十一月二十九日賃上げ要求に関するストライキ投票を終り、即日労働大臣に対して労働関係調整法第三七条に基く争議行為の通知を行なつていた。
そこで会社は、右のような組合の非信義的な態度並びに団体交渉を拒否している事実に鑑みるときは、到底当事者間の話し合いによる解決は期待し難く、又、十一月二十九日届出にかかる争議行為の通知は十二月九日には予告期間満了となるので、再び十一月争議と同じような激しい指名ストライキが強行されるときは、一般公衆に対する迷惑は測り知れないものがあると考え、十二月六日、中央労働委員会に対して賃上げ問題に関する調停を申請したのである。
この申請に対して中央労働委員会は、即日調停委員会を構成し、十二月十九日、二十日、二十一日と急速に事情聴取を進めて、いまや調停案を作成するばかりとなつた段階において、組合は二十一日午後十時発五二便ホノルル行から、突如として、十一月争議と同様に、国際線出発便の指名ストライキを開始したのである。
(二) 十二月争議における争議行為の態様
十二月争議において組合は、十二月二十一日五二便より二十二日午後十時三十分発四〇一便コペンハーゲン・ロンドン・パリ行に到るまで八便について次々と指名ストライキを実施したが、今回は、十一月争議の場合と苦干趣きを異にし、凡そ出頭時刻(出発時刻前一時間三十分)頃に指名ストライキを通告し、当該スト乗務員はその間全然、乗務管理課に出頭しなかつた。
(イ) 十二月二十一日、午後十時発、五二便ホノルル行
同便の乗務員は原野機長、大橋副操縦士、狩谷航空士、高橋機関士であつたが、定刻に到るも全員出頭せず、会社は、目下調停進行中で一両日には調停案も提示されるであろうという時期であるから、航空事業に関係する組合の良識からいつてストライキに入るなどということはあるまいと予測していたが右予想に反し同日午後八時四十分、組合より同便に対するストライキの通告をうけたので急拠管理職乗務員を以て代替乗務を命じた。
然し、何分にも夜間に入つてからの抜打ストであるため、緊急呼出しに時間を要し、四十九分遅延の午後十時四十九分漸く出発させることが出来た。
これに対して組合は、飛行機出発後約十分して、午後十一時、右ストライキに入つた四名全員についてストライキを解除して来た。
(ロ) 十二月二十二日、午前八時二十分発、七〇三便大阪・台北・香港行
組合は、同便の乗務員四名中、鈴木航空士のみについて、午前六時五十分、同時刻以降指名ストに入れる旨通告し、会社は、直ちに管理職航空士を以て代替要員として午前八時二十三分、出発させることが出来た。
組合は、会社が管理職を以て代置したと見るや、午前八時十分、鈴木航空士に対する指名ストを解除した。
(ハ) 十二月二十二日午前十時発、八一〇便ホノルル・ロスアンゼルス行
乗務員四名中中井航空士のみについて午前八時四十五分、同時刻以降指名ストライキに入れる旨通告して来た。これに対して会社は、早速代替要員に乗務を命じ、午前十時五分出発したが、これより先、既に出発準備も終了した午前九時二十分、右中井に対する指名ストライキは突如として解除された。
(ニ) 十二月二十二日、午後零時三十分発福岡・沖繩間九〇一便及び折返し沖繩・福岡間九〇二便
右両便には、野原機長、石橋副操縦士、荒井機関士が乗務することになつており、これ等三名は、午前九時五十分東京発福岡行三九一便に便乗して行つて、福岡以遠を往復乗務することになつていた。
ところが右三九一便の出発も迫つた午前九時二十分、先ず石橋副操縦士について、同九時十分以降指名ストに入れた旨の通告があり、更に十分後、午前九時三十分には野原機長について、同九時二十分以降指名ストに入れた旨を通告して来た。そこで、同人等が乗務するのは午後零時三十分福岡発の便であるけれども、そのために便乗すべき福岡行三九一便出発までには殆ど時間がなく、他の乗務員を代替させる暇もないため、遂に九〇一、九〇二両便共欠航とする外はなかつた。
(ホ) 十二月二十二日、午前十時五十分発、七三三便香港行
出頭時刻を十分過ぎた午前九時三十分に至り、菅野副操縦士、野田航空士の両名を九時二十分以降ストライキに入れた旨連絡を受けた。
これに対して、会社側は、最早や、両名に代つて乗務し得る管理職乗務員も払底して、代員を求めることが出来ないので、午前十時二十分に至つて已むなく欠航と決めざるを得なかつたが、欠航発表後直ちに組合は、右両名の指名ストライキを解除して来た。
(ヘ) 十二月二十二日、午後十時三十分発、四〇一便コペンハーゲン・ロンドン・パリ行
同便乗務の村川副操縦士、勝野航空士両名について午後九時以降指名ストライキに入つた。
会社は直ちに管理職乗務員を以て代置し、代替要員は早速出発前準備作業に着手したところ、午後九時三十分、右両名のストライキは解除された。
(三) 十二月争議の不当性
(1) 平和義務違反
昭和三十九年度賃上げ問題は、既に六月十一日労使間に成立した合意により完全に解決している。この合意が成立の過程から見ても、内容から見ても、一点の疑義を挾む余地もないものであることは既に述べた通りである。したがつて、昭和三十九年度以降の賃金に関しては同日付を以て同事項につき会社・組合間に労働協約が成立し、爾後同事項に関しては労使双方にとつて完全な拘束力を持つに至つたものと言わなければならない。
然るにも拘らず組合は、この合意を一方的に否定して、その内容と異る別個の要求を提示し、而も団体交渉をつくすこともなく直に争議行為を以てこれを貫徹しようとしたのであつて、かかる争議行為が労働協約に内在する平和義務に違反する不当な争議行為であることは多言を要しないところである。
成る程、前記協定は成文化されたが未だ両当事者の調印は行なわれていないし、又一方労働組合法第十四条は、労働協約として法律上の効力を取得するためには、書面に作成して労使双方の署名・捺印を経るべきことを要求している。然しながら、ここに所謂法律上の効力とは、労組法自体が労働協約に政策的見地から特に付与した同法第十七条・第十八条等の特別の効力のみを指すのであつて、同条の要件を充足しない労使間の協定は、労働協約と認められず従つて労働協約が本来的に具有する規範的効力を始め右協約に内在する平和義務をも認められないとする趣旨ではないのである。苟しくも労使間において権限ある機関が協約を締結する意思をもつて正当かつ内容の明確な合意を成立せしめた場合に、協定当事者間に労働協約として合意の内容通りの拘束を生ずるのは、労組法の規定を俟つて初めて生ずるものでなく、社会的法規範としての労使間の合意には本来的にそのような機能が存在しているという歴史的事実に之を求むべきであるから、右効力は書面化された同協約に事実上署名捺印がなされているか否かにかかわりないものと解すべきである。従つて同協約に於て合意された事項の変更を目的として実力行使を行うことはとりもなおさず平和義務に違反する行為に該当するのである。
仮に、法第一四条の形式的要件を具備しない労使間の協定は労働協約でないとの見解に立つとしても、一旦正当に合意が成立した後、偶々右合意に調印が欠けていることを奇貨として右に反する新たなる要求を提出して、而も力を以てその内容を変更させようとする行為が労使間の信義を破る不当極まる行為であることには何等変りはないのであつて、かかる争議行為はそれ自体権利の乱用というべく全面的に不当な争議行為に該当するのである。
(2) 調停手続中の争議行為の不当性
会社が本件賃上げ要求について中央労働委員会に調停を申請したのは、何よりも先ず会社の経営する事業の公益性に鑑み、一般公衆に及ぼす迷惑を極力回避して事態を平和裡に解決し度いとの熱望に出づるものである。中央労働委員会が直ちに調停委員会を設置し、調停手続の早急な進捗を図つたのも亦全く同様の見地に立つものと考えられる。
而して、労働関係調整法は、その第一条において、「この法律は労働争議を予防し又は解決して産業の平和を維持し、もつて経済の興隆に寄与することを目的とする。」と謳つている通り、現に争議行為が行なわれていれば早急にこれを終熄させ、争議行為発生の虞れがあれば極力これを回避せしめようとするのを根本精神としているものであり、更にその第三章に定める調停手続においては、特に公益事業のために格別の規定を設けて争議行為を回避せしめるため特段の考慮を払つているのである。
されば、苟しくも公益事業における労使紛争の関係当事者は、労調法第二条、第四条、第二十八条等に繰返し強調されている自主的解決の努力を尽すべきは勿論、更に進んで、一度調停手続に入つた以上は、むしろ積極的に調停委員会に協力し、三者一体となつて紛争の平和的解決に全精力を傾注すべきが当然である。然りとすれば少くとも調停手続進行中には、敢て実力を行使して、公益事業の停廃を招くがごとき行為は厳重に戒めるべきところであつて、それこそ労調法の趣旨に適合するゆえんであり、又は、争議権の行使において、まさに憲法第十二条の明言する公共の福祉にも合致するところと言うべきである。
然るに、組合は、調停手続が急速に進行して今や調停案の提示を待つばかりの段階において、特別の事情もないにもかかわらず却つて一般公衆に直接迷惑を蒙らしめる最も強烈な争議手段を突如として新たに開始したのであつて、右行為が公益事業の関係者としてその自覚と責任にかける極めて非常識なものであるばかりでなく、又憲法第二十八条、第十二条の趣旨に照らし、争議権乱用にわたる不当な争議行為であるとの非難を免れないのである。
(3) 争議行為の態様の不当性
十二月争議における指名ストライキが、十一月争議の場合のそれと比較して、若干整理された態様を示していることは認められるにしても、(恐らく、組合自身、十一月争議の際の指名ストライキの態様について、われ乍らその不当性を顧みるところがあつたのではあるまいか。)日々出発する多数の便の中から、ねらい打ちに、出発時刻間近かとなつてから抜打ち的に指名ストライキを敢行した点においては、本質的に何等変るところもなくその限りにおいて、十二月争議の争議行為も亦、さきに十一月争議について述べたところと、その不当性に関して何等択ぶところはない。
三、申請人等の責任
以上述べて来た通り、組合が十一月・十二月の両度にわたつて敢行した抜打ち指名ストライキは、すべての点から違法不当な争議行為たるを免れないものであるところ、申請人小嵜は組合委員長、田村は同副委員長、藤田は同書記長、丸山は執行委員情報宣伝部長であつて、争議時において争議行為の一切につき包括的な権限を持つ闘争委員会が設置された場合は、それぞれ闘争委員長、闘争副委員長、闘争委員会書記長、および闘争委員情報宣伝部長として、組合の行う争議行為については最高の責任を負うべき立場にあり、いずれもかかる違法不当な争議行為を企画・指令し実行せしめて会社に重大な損害を与え、かつ会社の信用を著しく傷つけたものであるから、会社の就業規則第五十七条第十七項「故意又は重大な過失により、会社に損害を与え、または信用を傷つけたとき」に該当し、かつその情状最も重いものであるから、到底、懲戒解雇の制裁を免れないものである。
(別紙(三))
被申請人の主張に対する答弁
一、一(一)(1)記載の事実のうち
会社で定期運航路線に使用するジエツト機としてダグラスDC―八型機とコンベアCV―八八〇型機の二機種を採用していること、会社は昭和三九年九月六名の外人乗務員の訓練を開始するとともにその旨組合に通知したこと、組合がこの会社の措置は昭和三八年八月二四日付覚書に違反するとの抗議を会社に行なつたこと、一一月一二日第一回団体交渉が持たれたこと、同日組合がストライキに突入したことはいずれも認める。
昭和三九年四月以降会社の実施した乗員養成計画が予定通り進捗せず、そのため日本人機長の昇格訓練が大巾に遅滞し、機長不足のために会社の事業計画遂行にも支障を来たすおそれが生じたこと、この事態に対処するためにはコンベア八八〇型機日本人機長の養成訓練にあてるため六名の外人乗務員を同型機のセーフテイ・キヤプテンとして投入することが必要になつたことはいずれも不知。
その余は否認する。
昭和三九年九月一五日、会社は組合に対し九月九日付「CV―八八〇型機の外人機長導入について」と題する書面で外人乗員六名をCV―八八〇型機々長(セーフテイ・キヤプテン)として雇傭すべく訓練を開始する旨通知して来た。それ以後、同年一一月一二日組合がストライキ突入に至るまで次のような労使間の折衝があつた。
一〇月二日 組合は「外人ジエツト・クルーに関する抗議及び質問書」をもつて会社のこの一方的な行為に抗議し、労使間の協定、覚書を守るよう強く要求。
一〇月五日 会社は外人ジエツト機長導入については単に九月九日付の通知どおりという簡単な回答文をよこす。
一〇月一四日 組合は「回答文JL―X―二〇五について」と題する文書で会社が組合の質問に対して誠意ある回答を行なうよう要求。
一〇月一五日 会社は、別件の組合要求とともに、本件についても労使会議において回答を行ないたい旨組合の了承を求める。
一一月二日 組合は、文書で労使会議の開催を要求。
一一月四日 組合は文書で会社の協定違反行為に重ねて強く抗議し、誠意ある回答を求めるとともに、厳重な警告を発した。
一一月六日 労使協議会開催。
席上、会社側の大庭常務は、「これは組合員のプロモーシヨンのことを考えて善意でやつたことだ。」と言い覚書違反を認めるかのような口吻を洩らしながら、引き続いて「セーフテイ・キヤプテンはキヤプテンでもクルーでもない。だから覚書に違反していない。」などと主張し、遂には田中運航部次長は前委員長が会社に了解を与えているなどと言い出す有様で、論旨の一貫を欠くばかりか会社の不誠意を如実に示したのである。
労使協議会終了後、組合は直ちに文書で団体交渉の開催を要求。
一一月一二日 団体交渉開催
席上、組合は会社に対して労使間の協定をどのように考えるのかと追求したところ、争議時には会社は外人クルーを使用しないとの協定について外人クルーとあるのはミスプリントであつて外人「ジエツト」クルーと記載されるべきであつたなどと主張し、さらに田子勤労部長はこの点につき「この条項は外人クルーの生活権の侵害になる。こんなことを労使間できめられる筈がないではないか。」とまで言うに至つた。しかも従来からの組合の質問に対しては会社は全く誠意ある回答を行なわなかつた。
以上で明らかなように、会社は組合の文書による疑義の解明と抗議に対して、さらに労使協議会・団体交渉の席上でも一片の誠意さえ示そうとしなかつたのである。
また、会社は組合が何等の通告もなく全くの抜き打ち的ストを行なつたと主張しているが、これも事実に反する。
一〇月二八日、組合は労調法三七条に基づく争議予告を中労委及び労働大臣に対して行なつたが、その後間もなく会社に対して組合はすでに争議予告を終え、一一月七日以後はあらゆる形態の争議行為を行なうことが法的に可能である旨通知した。さらに一一月四日文書で会社側の不誠意な態度が続く限りにおいては、如何なる事態が発生するかも知れぬことを警告し、一一月一二日団体交渉の開催に先立つて申請人小嵜は「組合としてはこの団交は極めて重要な団交であると考えている。その点をよく考えて誠意をもつて団交に応じてもらいたい」旨述べているのである。
しかもストライキ突入と同時に委員長が直接社長に対し電話でストライキに突入した旨を通告しているのであつて、何等の通告もなく全くの抜打ち的ストであるという会社の主張は甚だしい言いがかりと言わざるを得ない。
二、一(一)(2)記載の事実のうち
昭和三七年一〇月南廻り欧州線が開設されたこと、会社は八月二九日組合に対して調査の結果を説明し、九月七日以降実施に移りたい旨申入れたこと、会社は九月二〇日から実施にふみ切つたこと、組合が会社の措置に反対したことはいずれも認める。昭和三八年三月頃、パイロツト・ナビゲーシヨンで十分運航できる見通しのついたこと、一応組合の意見をも聴取するという態度をとつたこと、昭和三八年一〇月各種の事情が重なつて会社は実施を延期したこと、七月下旬会社が単独で最終調査を行なつてパイロツト・ナビゲーシヨン実施につき凡ゆる点から支障がないことに完全な確信を得たことはいずれも不知。
その余は否認する。
会社の協力要請に対して、組合が六―七月頃のモンスーン期が終るまで実施を延期してもらいたいと申し入れ、或いは春闘中で共同の最終調査はできないと断つたことは少なくとも機関の正式な意思として行なわれたことは全くない。
昭和三九年八月一九日、組合は会社大庭航整本部長に対してカラチ・カイロ間の航空士の件について、これは重大な問題であり、従前の労使関係を考慮して、八月下旬より航空士を一方的に降すことには反対である旨文書で申し入れた。
また、九月一六日団体交渉は行なわれていない。会社側も明言したとおり組合に対する単なる「説明会」であつたのである。意向を尋ねられた組合は「まだ新執行部が成立したばかりで、大会・代議員会など召集されていないからこの場で確たる返答はできない。兎に角強行実施はやらないで欲しい。」と要請したのであつて、何ら具体的理由を示すことなく、唯単に反対であるというだけであつたなどとは事実を歪曲するも甚だしい。
また、組合が会社の一方的な措置に反対したのは、労使間の信義違反と並んで、それがまさに労働条件であり労使間で協議決定すべき事項であつたからにほかならない。
三、一(二)(1)記載の事実のうち
国際線運航乗務員の各乗務における出発前の業務内容は認める。
四、一(二)(2)記載の事実について
(イ) 一一月一二日八六二便
会社・組合間の団体交渉が午後三時頃終つたこと、同便の乗務予定者は会社主張のとおりであること(但し、中島副操縦士が同乗訓練の予定であつたことは不知)、これらの者がついに飛行場に姿を現わさなかつたこと、小嵜委員長が直接電話で社長自宅宛にストライキ通知を行なつたこと、同便が予定時刻より遅延して出発したこと、組合が会社主張の時刻にスト解除通告を行なつたことはいずれも認める。
今後なお引きつづき第二回の団体交渉を持つて論議を続けようということになつていたこと、会社がその主張のような経過で組合がストライキに入つたのを知つたこと、小嵜委員長が社長宛に電話でスト通告をしたのは午後九時頃でありその内容は午後八時四〇分以降八六二便乗務の五名を指名ストに入れるというものであつたこと、当日の団交で、交渉はなお継続することに決定していたこと、会社はストが発生するなどとは夢にも思つていなかつたことはいずれも否認する。
その余は不知。
井原航空機関士は午後八時四五分、牛島機長、右京副操縦士、宮川航空士はいずれも午後九時にストライキに入り、それと同時に小嵜委員長は社長に電話でスト通告を行なつたのである(従つて委員長が当日社長宛にスト通告を行なつたのは二回である。)。
組合は、労調法による争議予告義務の完了後間もなくその旨を会社に連絡しただけではなく、当日の団体交渉の冒頭も含めて再三にわたり会社が不誠意な態度を持続する限りストを行なう旨の警告を発していたのであり、会社がスト発生など夢にも思わなかつたということは絶対にあり得ない。
(ロ) 一一月一三日七一五便
同便の乗務予定者が会社主張のとおりであること、組合が午前八時二〇分村田航空士、午前八時三〇分同航空士を除く他の三名につきスト通告を行なつたこと、会社主張の時刻に全員につきスト解除通告を行なつたこと、同便が予定時刻より遅延して出発したことはいずれも認める。
村田航空士が午前八時一〇分以降ストに入つたことは否認する。
その余は不知。
同航空士のスト突入の時刻は通告と同じ午前八時二〇分である。
(ハ) 一一月一三日八〇六便
会社主張の二名につきその主張の時刻にスト通告があり、かつこの両名は出頭しなかつたこと、同便の運航が取消されるに至つたことはいずれも認める。
スト解除の時刻が午後一時であることは否認する。
その余は不知。
スト解除の時刻は正午である。
(ニ) 一一月一三日七三五便
同便の乗務予定者が会社主張のとおりであること、乗務管理課からの電話に対して、組合は会社主張の時刻に三名につきストを解除する旨を通告したこと、同便が予定より僅か遅延して出発したことはいずれも認める。
増子機長らが乗員送迎用の自動車に乗り込んで飛行場に向け出発したこと、それらの者が税関のところまで行つたこと、小嵜委員長が平然として午前一〇時以降ストライキであると電話に答えたことはいずれも否認する。
その余は不知。
一一、一二両月のストの中で、本便も含めて乗員送迎用の自動車に一旦乗り込んだ者、または税関のところまで赴いた者がストに突入した事例は一つもない。
午前一〇時二〇分会社側藤山次長より七三五便は、一〇時三〇分から指名ストに入れるのかとの電話があり、石川執行委員が午前一〇時から、同便の副操縦士、航空士、航空機関士がストに入つた旨答えている、
(ホ) 一一月一三日八一六便
同便の乗務予定者が会社主張のとおりであること、組合は会社主張の時刻にその主張する三名のスト通告を行なつたこと、同便が予定時刻より遅延して出発したこと、右三名のストを午後一時以降解除する旨通告したことはいずれも認める。
四名が運航管理課から飛行場に赴いたこと、運航管理課からの電話に対して同便は指名ストでない旨返答したことスト解除通告の時刻が午後一時五〇分であることはいずれも否認する。
その余は不知。
組合の運航管理課に対する返答は「同便に乗務するクルーは現在指名ストに入れていない」ということであつた。また、スト解除通告の時刻は、スト解除の直後である。
(ヘ) 一一月一三日三二三便
本便が国内線であること、国内線の場合出発前の出頭時刻は一時間前であること、中村副操縦士につき午前一〇時四五分以降ストに入れる旨通告したこと、同便が予定時刻より遅延して出発したこと、組合は同副操縦士のストを午後一時以降解除する旨通告したことはいずれも認める。
その余は不知。
スト通告、スト解除通告はいずれもスト突入、スト解除の直後に行なわれている。
(ト) 一一月一三日六六便
組合が同便乗務予定の会社主張の二名の乗務員につきスト通告を行なつたこと、午後一〇時二〇分頃、池内航空士のみスト解除の通告を行なつたこと、同人が再度同便に乗務したこと、同便が予定時刻より遅延して出発したことはいずれも認める。吉永操縦士につきスト解除通告がなかつたこと、スト通告の時刻が池内・吉永について会社主張のとおりであることはいずれも否認する。
その余は不知。
右両乗務員について、スト通告を行なつたのは午後八時三〇分である。
なお組合が池内航空士を一旦ストに入れながらこれを解除したのは次のような理由によるのである。
すなわち、同便につき代替要員である印藤航空士(管理職)がその頃ごく近親者に不幸があり葬儀の参列もできないままに代替要員として同便に乗務することを知つた組合は、同航空士の立場を十分考慮した結果、会社側に対して印藤航空士を乗務させないよう申し入れた後に、スト解除を行なつたのである。
(チ) 一一月一四日九五五便
同便の乗務予定者が会社主張のとおりであること、これらの者が午前七時五〇分以降ストに突入したこと、会社から組合に対し会社主張のような申し入れがあつたこと、組合はそれを理由にスト通告を解除したこと、同便が予定時刻より遅延して出発したことはいずれも認める。
その余は不知。
ソウル便は国際線ではあるが、出頭時刻は国内線と同様一時間前と定められている。
(リ) 一一月一四日八〇八便
同便の乗務予定者が会社主張のとおりであること、これらの者は飛行場に姿を見せなかつたこと、組合からこれらの者につきスト通告があつたこと、大野を指名ストに入れる旨通告したこと、同便が予定時刻より遅延して出発したこと、大野航空士につき午後一時三七分スト解除となつたことはいずれも認める。
一〇時すこし前、佐々川機関士を指名ストに入れる旨の通告があつたこと、続いてその他の三名のスト通告があつたこと、大野航空士を除く他の四名につきその後何の連絡もなかつたこと、会社側の問合わせの結果、会社主張のような返答を組合がしたことはいずれも否認する。
その余は不知。
スト突入の時刻は佐々川機関士については午前九時、他の三名については午前九時一〇分であり、通告はこの九時一〇分の直後に四名一括して行なわれたのである。
また解除時刻は菅野、宮川については午後一時四五分、谷脇、佐々川については午後七時三〇分であつて、しかもすべて会社側へ通告はなされている。
(ヌ) 一一月一四日七三七便
同便の乗務予定者は会社主張のとおりであること、会社側が午前一〇時二〇分頃組合に対し協力方を要請してきたこと、会社主張の三名が午前一〇時一〇分以降ストに突入したこと、同便が予定時刻より遅延して出発したことはいずれも認める。
会社が組合に対して幸にしてまだ指名ストに入つていないがこの便については是非協力を得たい旨申入れたこと、組合が午前一〇時三五分頃三名のスト通告を行なつたことはいずれも否認する。
その余は不知。
会社側から組合に対して協力方の要請があつたときは、すでにスト突入後でありしかもその旨会社に通告ずみであつて、会社の申し出はストを解除してくれないかということであつた。これに対し、組合は一旦はスト解除を認めかけたが、なお念のため会社国際旅客課に問い合わせたところ、すでに遺骨はガルーダ航空に移してしまつた後であるということであつた。そこでさらに引き続いてガルーダ航空に問い合わせた結果、遺骨かどうかはわからないが、日本航空から荷物が送られて来ているということが判明した。そこで組合は、会社の主張は根拠がないと判明しストの継続をはかつたのである。なお、金高、杉本、中井のそれぞれのスト解除時刻は午後八時、午後七時三〇分、午後三時であつた。
(ル) 一一月一四日六八便
同便の乗務予定者が会社主張のとおりであること、乗務予定者が飛行場には行かなかつたこと、会社主張の者が同主張の時刻にストに突入したこと、本便は欠航したこと、花田航空士につき、一五日午前一時スト解除の通知があつたことはいずれも認める。
鈴木、倉田、柳田の三名につき、最後までスト解除の通知がなかつたことは否認する。
その余は不知。
前記三名はいずれも一四日午後一一時一五分スト解除、引き続いてその直後に解除通告を会社に対して行なつている。
五、一(三)の主張は、全面的に争う。
六、二(一)(1)記載の事実のうち
昭和三九年六月一〇日、組合が妥結のためのすべての手続を完了したこと、六月一一日組合委員長が社長、労務担当常務取締役に対して正式決定を通告したこと、組合の規約上争議の妥結権が代議員会の専決事項とされていること、昭和三九年度の賃上げ問題に関して労使間に完全な合意が成立したこと、昭和三九年度の春闘要求につき労使間に十二分の話し合いが行なわれたこと、六月一一日の合意成立には手続上何等の瑕疵も存しないこと、組合の当初要求の全部について満足すべき解決をみていること、春闘要求は完全に妥結したということができることはいずれも否認する。昭和三九年度賃上げ要求の内容は争う(平均基本賃金・平均乗務時間をどのように定めたかが明らかでない以上、会社主張の数字が組合要求に合致しているかどうかは不明である。)。
昭和三九年春闘に際して会社が二度にわたり回答を修正したことは認めるが、その内容が譲歩ということは到底できない。
その余は認める。
組合規約二六条によれば、労働協約の締結、争議権の解除は代議員会の附議事項とされているが、これは専決事項の趣旨では勿論ないばかりでなく、一般的にも本組合の規約においても組合大会が最高決議機関とされているのである。なお、谷脇委員長が社長及び労務担当常務取締役に連絡したのは、電話によつてであり、しかもその際一般組合員の不満がかなり強いのでまだ確答できない旨明確に述べているのである。なお、執行部の態度に不満をもつ一般組合員から臨時組合大会開催の請求があり、これに基づき大会の公示がなされたのが六月二二日のことであつた。
七、二(一)(2)記載の事実のうち
組合新執行部が一一月四日提出した要求は新らしいものであつたこと、要求内容のうち基準給の比率及び額、この要求が六月一一日妥結の前提となつた春闘要求と全然別個のものであること、組合が春闘はまだ妥結していないことを会社が認めない限りは、新要求についての趣旨説明にも応じられないと強硬に主張し一二月一五日会社が再三にわたり団体交渉を申し入れたのに対しても種々の条件を構えて更に応じようともしなかつたこと、組合が争議予告の届出を一一月二九日に為したこと及びその予告期間満了が一二月九日であること、一二月六日会社は中労委に調停申請したこと、一二月二〇日中労委による事情聴取が行なわれたこと、中労委が急速に事情聴取を進めて、いまや調停案を作成するばかりとなつたこと、組合が突如としてストライキを行なつたことは、いずれも否認する。
要求の内容のうち、基準給を除いた部分の比率及び額はいずれも争う(なお、こゝに記載されている「平均」なる金額は組合員全員の平均ではない。)。
その余は認める。
基準給についての要求は、旧日本航空整備労働組合と同等にせよということであつた。組合が賃金要求について主張したのは未だ正式調印が行なわれていないばかりでなく、臨時組合大会で正式に否決された以上まだ春闘は妥結したとはいえないということ及び春闘が妥結したという前提に立てば、一年間その賃金協定に拘束されるのであるから、春闘妥結後の新要求として協議することはあり得ないという根拠に立つたのである。
一二月一〇日以降の団体交渉の経過については、会社は春闘の協定に調印しなければ団交に応じないという立場をとつたため、組合はこれは実質的な団交拒否ではないかと迫り、遂には春闘に際して直接組合との交渉に当つた社長自身が団交に出席するよう要求した。なお、会社が正式見解として春闘は妥結しているという立場をとり初めたのは、一二月一〇日の団交の席上、一旦休憩後のことであり、同日休憩前は、会社側で春闘は妥結していないということを認めた発言があつた。
このような経過を経て会社の態度が定まるや、その後は全く「春闘は妥結した」という線を固持し続けた。一二月一五日、団交を言を左右にして拒否したのは会社側である。会社は、会社の回答がなく団交も開かれぬうちにスト権確立の投票を行ない労調法による予告を行なつたことを非難するかのような口吻を洩らしている。組合側の再三の団交開催要求に対して会社が全く応じる気配を示さないからこそスト権確立を行なつたのである。
また、一二月六日、会社が中労委に調停申請をした事実は全くない。これは一二月一六日の誤りである。
さらにまた中労委で調停案を作成するばかりの段階になつてストライキを行なつたのではない。中労委における会社の態度は最初から一貫して組合が正規の手続を経て会社側に妥結回答をしている以上春闘はすでに妥結していること及び以上の点がどうあろうとも組合の要求には一切応諾できないという立場をとり続けた。つまり、組合に対してゼロ回答を認めよというのである。譲歩という構えの全くない調停などというものはあり得ない。このような会社側の態度の結果、調停案は到底作成される状態ではなかつたのである。
さらにまた、本回も前回同様全くの抜き打ちストという訳ではない。一二月二一日午後一時三〇分頃第二回の事情聴取に先立つて組合は労働省記者クラブで記者団と会見し、会社側の態度が変わらぬ以上今夜よりストに入る旨を説明、さらに安恒労働者側委員に対し同様の説明を行ない同委員を経由して会社側が知ることを期待した。「突如」ストを開始した事実は全くない。
八、二(二)の事実について
(イ) 一二月二一日五二便
同便の乗務予定者は会社主張のとおりであること、定刻に至るも全員出頭しなかつたこと、会社主張の時刻に会社はスト通告を受けたこと、同便が予定時刻より遅延して出発したこと、組合は被申請人主張の時刻に全員につきストを解除したことはいずれも認める。
一両日には調停案も提示されるであろうという時期であつたこと、抜打ストであつたこと、はいずれも否認する。
その余は不知。
(ロ) 一二月二二日七〇三便
本便の出発時刻は不知。その余の事実は認める。
(ハ) 一二月二二日八一〇便
本便の出発時刻は不知。その余の事実は認める。
(ニ) 一二月二二日九〇一、九〇二便
スト通告が石橋副操縦士、野原機長についてそれぞれ午前九時二〇分、同三〇分であつて、三九一便出発まで殆ど時間がないことは否認する。その余は認める。スト通告は、いずれもスト突入の直後に行なわれている。
(ホ) 一二月二二日七三三便
当時代替乗務し得る管理職乗務員が払底して代員を求めることが不可能であつたことは否認する。その余は認める。
(ヘ) 一二月二二日四〇一便
代替要員が出発前準備作業に着手したことは不知。その余は認める。
九、二(三)及び三の主張は全面的に争う。
申請人らの反論
一、一一月争議
(一)、目的の正当性
会社は、組合が会社に対して覚書違反がないのにあることを認めよと要求し組合の覚書に関する解釈を押しつけるためのストライキを行なつたかのような主張をしている。
しかし、外人ジエツトクルー問題に関しては本件争議は労働協約を防衛する目的に出たものであつて、何等問題となるべき点はない。協約が侵害され或いはまさに侵害されようとしているときに組合が実力でこれを守ることは当然の権利である。
さらに会社は、カイロ・カラチ間航空士乗務の問題について乗員編成問題は本来会社の専決事項に属することを強調している。しかし問題は、これが労働条件なのかどうかという点にあるのであつて、会社の専決事項か否かは直接関係はない。会社の論理を展開すれば人事協定の締結を要求する争議行為も違法となつてしまうのである。会社が一方的に実施できる権限の有無と関係なく、組合として、組合の同意のうえで行なうことを要求することは何ら差支えない。
そして、これは航空士にとつて賃金低減、操縦士にとつて作業量の増大という意味で労働条件と云えるばかりでなく、それは誰をどの職場に配置するかという人事配置の問題であり、同時にまた運航の安全確保という点からも全乗員に関連する労働条件といえよう。しかも国際線で三人乗務の場合本件労使間に賃金協定がないのである。
(二)、態様の正当性
(1) ストライキの本質論として最高裁が会社の主張するような論旨を一応展開しながらも「諸般の事情の考慮」という判断基準によつて、具体的事案においては単なる労働力の引上げにとどまらず、労働者の可成り積極的な行為(とくにピケツテイング)を容認していることも周知の事実である。つまり我が国で現在争議行為の本質論が問題とされるのは、経営者が自己の手元に確保した労働力を駆使して企業を継続しようと試みる場合に、労働組合はどの程度にこれを妨害することができるのかという点をめぐつてである。
その意味では、本件争議は「労務の不提供」以外の何ものでもなく、まさに憲法の保障する最低限の権利行使であつたのである。労務の不提供自体は大正年間、あの治安警察法第一七条により争議行為が禁圧されていた時代にさえ認められていた理論なのであるが、本件で会社は権利濫用の名のもとに、この単なる労務不提供にさらに一定の制限をもうけようと試みているのである。
(2) 会社は、労働力引上げの時期・方法その他の態様が恣意的に過ぎ・・・・争議行為の相手方を不相当に混乱に陥入れるものとして、これが争議権濫用の一つの根拠であるとする。
しかし、組合がどの段階でストライキに入るかは、組合が独自で判断することができ、これをもつて権利濫用論の根拠とする訳にはゆかない。しかも組合としては最も効果的な戦術をとる自由がある。会社側が不相当な混乱を生じたのは帰するところその争議対策の拙劣さを自ら告白したものにほかならない。一一月一四日の八〇八便において宮川航空士に引き続いて代替乗務員の大野航空士を出発前の準備作業を了えた段階でストライキに入れたことをとらえて、会社は組合の「極端な積極的加害の意図を露呈している」と主張する。しかし、スト破りに組合員を使用すること自体が会社の争議対策の無能ぶりをいかんなく発揮している。
そもそも労働争議である以上、「業務阻害の意図」があるのは当然であり、その結果会社に損害を生ずるのも当然である。それが大きな効果を生ずることはいけないと労働者に要求することは許されない。それでは結局効果的な争議戦術であればあるほど違法性を帯びるということになつてしまうのである。問題は争議目的が正当であるかどうかという点にこそある。この他に「害意」なるものを論ずる余地はなく必要もない。
さらに会社は、「会社存立の基盤である利用者の会社に対する信用という無形の財産に容易に回復し難い大打撃を与えることを目的とし又は少なくとも認識して行なつたものであつて正当な争議権の範囲を逸脱している」という。しかし凡そ争議の結果客観的に会社の信用が害されることは当然でありこのような基準に立てば、すべての争議行為は違法となつてしまう。
(3) さらに会社は事業の公益性、定期航空事業の特殊性を主張する。
しかし、前者については、労調法三七条の予告義務があり、しかもこれらに限られているのであつて、会社の主張は、この法の制限以上の制限を争議権に加えようとするものである。
また、航空事業の特殊性も、他の私鉄或いは観光バスなどの場合と比較して異別に論ずべき筋合のものは一つもないであろう。
二、一二月争議
(一)、平和義務違反か
この点については、先に明らかにしたように、実質的な意味でも労使間に合意があつたとは言い難いのであるが、労働組合法第一四条の解釈として協約は労使間に集団的継続的な関係を設定することによつて、その紛争防止に資するものであることを強調し、書面による当事者の最終的な意思の確認をまつて、はじめてその効力を生ずべきものとし、書面によらない協定には一切の法律上の効力を否認する判例の立場を援用するのみで十分である(東京地裁 昭和三二・二・一二判決 明治屋事件)。
(二)、調停手続中の争議行為について
調停継続中争議行為を行なつてはならないという法的規制がないばかりでなく、従来私鉄総連などではしばしばとられてきた戦術である。先に述べたような不誠意極まる会社の態度とにらみ合わせると、この点も何ら問題となる余地はない。
(三)、態様についても、先に一一月争議につき述べたのと同様である。たゞ、比較的程度を弱めたのは、組合の闘争戦術として今回は飛行機をとめないという方針を出したために過ぎない。